2004年に観た展覧会・ダンス演劇等の公演など10選。 第一位: 宮本 隆司 『壊れゆくもの・生まれいずるもの』, 世田谷美術館, 2004/05/22-07/04, 写真展. 例えば、1960年代の大辻 清司の写真と比較すると、一見似たような画面であり ながら、ちょうど被写体の性格が反転している ―― 建設中もしくは建設直後の ものから解体中のものへ ―― ところがとても面白いと思っていた。もちろん、 この主題の反転は、日本社会の変化が反映したものだとも思うけれど。歴史的 建造物の解体というともすれば感傷的になりがちな題材と、そういう物を排して 物質性を強調するような撮り方の、絶妙なバランス感が面白かった。 http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/04060501 第二位: World Chess Boxing Organization (WCBO) Team Japan, _The Tokyo Fight: Iepe The Joker vs Soichiro The Cho-Yabai_, 2004/04/17, 19:00-, パフォーマンス. 思考をメインとするスポーツ (マインド・スポーツ) のチェスと、肉体を駆使する 格闘スポーツであるボクシングとという、スポーツの中でも両極端に思える2つの 競技を組み合わせたチェスボクシングのデモンストレーション・マッチだが、 このイベントの面白さは、組み合わせの斬新さというより、それを実際にやって みせているということだ。それも、チェスもボクシングの練習もろくにせずに それっぽい真似事をしてコンセプトで満足するレベルではなく、「アート」という 言訳抜きで楽しめるレベルでやろうとしているし、実際にそのレベルはクリア できていたと。 http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/04041702 第三位: 照屋 勇賢 in 『第2回府中ビエンナーレ ― 来るべき世界に』, 府中市美術館, 2004/12/11-2005/2/27, 美術展. ワークショップという制作手法も使いつつ記録の雑然とした陳列にならず、絵を内側に 閉じて整然と並べられた箱というミニマルな展示はフォーマルな端正さもあり、 米軍ヘリ墜落事故現場の様子を描き伝えるという直接的なメッセージもありながら、 「デリバリのピザのように規制・制約を擦り抜ける情報伝達としてのアート」という メタな視点も作品にしっかり内包している、シリアスな題材ながら、ビザ箱らしい デザインや表現をパロディにして新聞記事をアレンジしたものにはユーモアも感じ られるという、非常にバランスの良い作品だった。 http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/04121201 第四位: Dan Graham, _Dan Graham by Dan Graham_, 千葉市美術館, 2003/12/01-2004/02/01, 美術展. ハーフミラー、ミラー、有孔ステンレスパネルを使ったパビリオンの展示全てで 他の客の反応に伴う関係性の面白さを体験できたわけではないが。「あ、そこから 入れるんだ」という他の客の反応が見られただけでも、千葉まで足を運んだ甲斐が あったと思う。コンセプトだけでなくそれが体感できるレベルの作品になっていると 実感できたように思う。 http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/04012501 第五位: 『ブラジル:ボディ・ノスタルジア ― 9人の作家による現代美術展』, 東京国立近代美術館, 2004/6/8-7/25, 美術展. 香りを意識した作品が多かったのが印象に残った。嗅覚が視覚や聴覚と違い 身体感覚を強く意識されるものということもあるし、あまり具体的なイメージが 無い所で香りを嗅ぐという行為は、目前で同時的に起きているものを観る聴きする というより、「残り香」という言葉にあるように、見聞きできない既に終って しまったもの/去ってしまったものを嗅ぎ取るという感覚を喚起させられるところも あり、まさに "Body Nostalgia" という企画に合っていたのかもしれない。 http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/04070310 第六位: 『幻のロシア絵本1920-30年代』, 東京都庭園美術館, 2004/7/3-9/5, 美術展. もともと、Avant-Garde のデザインは近代的なイデオロギーが、端的に表現されて いることが多い。子供向けの絵本の場合、啓蒙を意識してか、教訓的な物語や社会 のしくみの説明という中に、非常に端的に表出しているところがある。よく出来た 絵本ほど、近代の本質を簡単な言葉と絵でずばり突いているように感じられる。 それがカッコいい。 http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/04072401 第七位: 水と油 『スケジュール』, 世田谷パブリックシアターシアタートラム, 2004/06/18, フィジカルシアター. この作品のハイライトは、座面の方向を90度違えて組み合わせた椅子を中心に 展開する場面だろう。この座面にパフォーマーが座り、その椅子と向きを 合わせた小机やそれを巡る動きを展開することによって、直交する2つの重力 方向とその相互作用を表現していくのが面白い。2つの椅子が絡み合っている ように、異なる重力が働く空間が複雑に絡み合っているのが、とてもシュールな 印象を与えていて面白いのだ。それに、この直交する2つの重力が働く空間は、 パフォーマンスが進むに連れて、回転し傾き移動していくのだ。この動きの 存在もとても面白かった。 http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/04061801 第八位: Strange Fruit, _The Spheres_, 六本木ヒルズアリーナ, 2004/11/21, パフォーマンス. 最初は白い球がパフォーマ全体を覆っており、パフォーマーが球から上半身だけ 出した状態となり、続いて球の上に乗ったかのような状態となり、最後には球無し となる。表現語彙が抽象的なダンスから少しずつ演劇的になっていくようで、 その切り替えも面白い。ポールの揺れと上半身の動きというかなり制約のある ミニマルな動きの中で様々なニュアンスを表現していくところがこのカンパニーの 面白さの基本だが、白い球というミニマルな造形がそこに合っていたように思う。 http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/04112101 第九位: クワクボリョウタ 『Rippling Floor』, NTT ICC, 2003/11/7-2004/3/21, 美術展. この作品が僕が好きなのは、観客との相互作用のタイミングだ。レスポンスの良い 非常に判りやすいタイミングではないのだが、まったく判らなくてランダムに やっているのも同然というものではない。ゆったりじんわり効いているような ディレイ感が、なんとも良いように思う。この手のテクノロジーアートの作家の 多くが、高速ザッピング映像や細かく刻んだサンプリング音楽のような、高速度を 意識させるような表現を多用しがちなだけに、このゆったり感は貴重だ。 http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/04082101 第十位: 楢橋 朝子 『Half Awake And Half Asleep In The Water』, BankART 1929 馬車道, 2004/3/6-4/4, 写真展. 画面をほぼ水平二等分するような構図の写真作品は、それだけで一ジャンルを形作り つつあるように思う。しかし、彼女の作品では、それは安定した幾何的構図をとって いない。遠方に見える岸辺の風景からなる上半分の静的な画面と、その上半分を飲み 込むかのように波打ち膨れあがる真近の水面からなる下半分の動的な画面の コントラストがとても面白い。 http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/04040301 2005/01/01 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/