『Variations On A Silence ― リサイクル工場の現代美術』 http://www.variations.jp/ リーテム東京工場, 大田区城南島3-1-9 2005/5/13-29, 13:00-19:00 (日12:00-17:00) - 刀根 康尚, Christian Marclay, 近藤 一弥, Pol Malo, 710.beppo, 平倉 圭 大田区といっても平和島や大井埠頭のさらに先、城南島に新たに出来たばかりの リサイクル工場を会場とした現代美術の展覧会を観てきた。 最も印象に残ったのは、710.beppo の『0.7 tons for music』 (2005)。0.7トンの 長方形の鋼鈑を水平になるように四隅から吊るし、それを工業用バイブレータで 振動させるというもの。大きな音響が聴かれるだけでなく、板の上でその振動を 体感することもできるというものだ。 この作品で僕が思い出すのは、金沢 健一 が2000年頃から制作している『振動態』 シリーズだ。この作品も重厚な鋼鈑を振動させて大きな音を発生させる作品なのだ。 異なる点といえば、『振動態』はテーブル程度の大きさのもので人が乗れないのに 対して『0.7 tons for music』は人が鉄板の上に乗れるというということだ。 確かに、『振動態』でも鋼鈑に触れることによって弾け飛ばされるような強烈な 振動を感じることはできる。しかし、『0.7 tons for music』での下半身全体を 使った振動の体感は、それ以上に強力だ。それだけでも、城南島へ行った甲斐は あったと思う。 しかし、その一方で、工業用バイブレータの使用など、『0.7 tons for music』の ギミック臭さも気になった。『振動態』での音の出し方は、ゴムボールで鋼鈑の 表面を撫で続けるだけ、というものだ。それだけで、鋼鈑はしだいに巨大な音響を 発し始めるのだ。鋼鈑に鳴らす鍵は、かける振動のパワーではなく、固有振動数を 使って鋼鈑を共鳴させるというということだ (逆に、固有振動数以外の振動では、 いくらパワーをかけても鋼鈑は鳴り始めない)。さらに、『振動態』では、撫でる 方向などを変えることにより節の位置を変え、鋼鈑が発する音を変化させていた。 『振動態』の方が『0.7 tons for music』よりも多様な音響を発していたように思う。 いかにも力業な『0.7 tons for music』に比べ、鋼板の共鳴と巧く利用して ゴムボールで撫でるという最低限の操作で多様な音響を発生させる『振動態』の方が、 僕には、スマートかつミニマルで美しいと感じられるのだ。 鋼板の上に人を乗せるのであれば、共鳴を使って鋼鈑を振動させつつ、人が乗った ことによる節の位置の変化や固有振動のズレを利用してインタラクティブに音響を 変化せて聴かせる作品にすると、とても面白い作品になったのではないかと思って しまった。もしかしたら『0.7 tons for music』もそういう所を狙った作品だった のかもしれないが、チュ−ニングが難しかったのかもしれない。 710.beppo『0.7 tons for music』の他では、Christian Marclay の一連の作品 _Laptop Players (Duet)_ (2005)、_Recycling Circle_ (2005)、_Cell Phones_ (2005)、_Ascension_ (2005) が良いと思った。PCのリサイクル工場の様子を捉えた 映像と音を使い、音楽的なサウンドコラージュ付き映像インスタレーションに 仕立てたものだ。さらに、音を出したり映像を表示したりするのに、ラップトップの PCや携帯電話などを使っている。リサイクル工場という場をちゃんと意識した作品で ある上、それで終わらない、音や映像、さらにそれを表示させる上での洒落気も あったのも良かった。 2005/05/29 嶋田 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/talk/index.html