『日本におけるドイツ2005/2006』内の企画として『ドイツのダンス ― 新しい世代』 という公演シリーズが11月前半に青山円形劇場で開催された。その中から、以下の 2つを観てきた。とても良かったという程では無かったが、興味深い所もあったので、 軽くコメント。 Antje Pfundtner _eigenSinn_ (2003) 青山円形劇場 2005/11/10, 19:00-20:00 - Choreography/Dance: Antje Pfundtner. ほぼ正方形の舞台の奧、上手に白い椅子と机 (デスク)、下手に白い箱が置かれて 下手中央に音楽用フットボタンが置かれただけという舞台。ダンサー自身が ナレーションしながら踊るというものだった。ナレーションは英語で、断片的な 物語のような日常描写のようなそうでないようなテキストだった。ナレーションの 内容と身体の動きは、特に強い関係があるようには感じられなかったが、身体の 動きは抽象的なものというよりも、日常的な所作をベースにしているように見えた。 テキストにしてもダンスの動きにしても、ナルシスティックに感じる所 (その最たる ものが自慰を思わせる動き) があったが、それも主題の一つだろうか。 最も印象に残ったのは、照明を落した中、スポットライトの中でミラーボールを 被ってスピンをした所。スピンの早さや変化も、ディスコフロアでのような控えめで 背景的なものと違い、かなり表現的に感じされた。自己と宇宙の直結というよう にも感じられ、そこも興味深かった。 Thomas Lehmen _Mono Subjects_ (2001) 青山円形劇場 2005/11/13, 19:00-20:00 - Concept: Thomas Lehmen. - Choreography/Music/Dance by Maria Clara Villa-Lobos, Gaetan Bulourde, and Thomas Lehmen. 舞台上での状況や、制作の経緯、ダンサーのバックグラウンドに対してセリフを 使って言及しつつ踊るというメタ・ダンスだ。 舞台の背景はアルミホイルが一面に貼り付けられ、奧にエレクトリック・ベースと アンプ、スピーカのセットが3組並べて置かれているという舞台だった。Lehmen が 語りなど進行の核になり、非ダンサー的な Bulourde、最もダンサー的な Villa-Lobos という感じであった。 最もダンス的だったのは、作品の中盤にあった、Lehmen と Bulourde の弾く エレクトリック・ベースのノイズ的な演奏の中で Villa-Lobos のソロ。それまで の舞台での様々な動きがダンスに織り込まれていて、ダンスの創作過程とその結果 を観るようでもあった。 Bulourde は元々ミュージシャンで、ダンサー的な所作はほとんどできないのだが、 それがダンス的な動きを相対化して少々道化的な面白さを生んでいたように思う。 作品も、単にメタな言及だけならつまらないものになっていたように思うが、 ユーモアに救われていたようにも思う。気の強そうな Ville-Lobos のキャラも 立っていて、ダンス以上の存在感が感じられた。 Lehmer はベルリンを拠点に活動している一方、Bulourde はフランス出身、 Villa-Lobos はブラジル (Brazil) 出身でドイツでロシア式のバレエを学んだ後、 現在はベルギーを拠点に活動しているという。ある意味でマルチカルチャルな 組合せなのだが、作品からはそれは感じられず、むしろもっと私的な印象を受けた。 ダンスにおけるリアリティが主題になっていて、ドイツ的なダンス/身振りに 対する批評という面も少々あったが、「ドイツのダンス」のような文脈を意識 したものというより、もっと私的なものとして扱っていたように感じられた。 _eigenSinn_ と _Mono Subjects_ に共通して感じたことは、ナレーションや セリフを用い、人の動きを追求するというより、演劇的な要素を強く感じるもの だということ。単にそういう作品が偶然重なったのか、tanz theatre の伝統 なのかは、判らないが。 また、2作品とも、メジャーなカンパニーの作品に比べて、主題の選び方といい 私的な表現と感じられるものだった。そして、それはソロもしくは少数人の プロジェクトだからこそ可能な表現のようにも思う。ヨーロッパのコンテンポラリー ・ダンスは、メジャーなカンパニーの来日公演以外なかなか観る機会が無かったので、 そういう点は新鮮に観られたように思う。メジャーのカンパニーの作品だと演出に 目が行きがちだが、このようなソロや少人数のプロジェクトの場合、ダンサーの 動きやキャラ立ちが際立ち、その面が楽しめた。しかし、私的な主題ということも あって、作品が小粒に感じられたというのも否めない。 Lehmer のアフタートークによると、メジャーなカンパニーに所属しないソロや 少人数のプロジェクトの背景には、メジャーなカンパニーや劇場が閉鎖的になって きているということもあるそう。単純に私的な表現からの必然から、このような 編成や主題が生まれているわけでも無いようだ。 sources: Antje Pfundtner, http://www.antjepfundtner.de/ Thomas Lehmen, http://www.thomaslehmen.de/ Maria Clara Villa-Lobos / XL Production, http://www.xlproduction.net/ 2005/11/13 嶋田 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/talk/index.html