『ドイツ写真の現在 ― かわりゆく「現実」と向かいあうために』 _Zwischen Wirklichkeit und Bild: Positionen Deutscher Fotografie der Gegenwart_ 東京国立近代美術館, http://www.momat.go.jp/ 千代田区北の丸公園3-1 (竹橋), tel.03-5777-8600. 2005/10/25-12/18 (月休), 10:00-17:00 (金10:00-20:00). - Bernd & Hilla Becher, Michael Schmidt, Andreas Gursky, Thomas Demand, Wolfgang Tillmans, Hans-Christian Schink, Heidi Specker, Loretta Lux, Beate Guetschow, Ricarda Roggan. ドイツはミュンヘン (Muenchen, Deutschland) の Pinakothek der Moderne の 企画によるドイツの現代写真の展覧会。Bernt & Hella Becher が冒頭に置かれた 展覧会だが、Kunstakademie Duesseldorf 出身の作家は Gursky と Demand だけ。 意外と Becher schule 色が薄い展覧会だった。 Becher は、類型学 (typology) として知られる建築物を捉えた写真で知られる。 特に、建築物を捉えた写真をグリッド状に並べると、差異が際立って面白い。 最も好きな写真家の一人だ。この展覧会でも、「採掘塔」 ("Winding Towers", 1962-1966) や「砂利工場」 ("Gravel Plants", 1988-2001) のような典型的な 作品が出ていて、楽しめた。 Becher 以外で最も印象に残った作家は Andreas Gursky。幾何的な構図の面白さも あるパノラマ的な写真を、1辺2m前後と大きくプリントした作品だ。"Greeley" (2003) では、グリッド場に柵で区切られただたっびろい牧場を少し高い位置から捉えた 写真なのだが、その人口的なランドスケープは、牧場というより養鶏場ならぬ 養牛場ならぬ感じだ。7階分の丸い吹抜けから覗く駅の様子を捉えた "San Paulo, Se" (2002) も、大きく画面を区切る6つのコンクリートの床/手摺りと その間から覗く駅の雑踏が、ミルクレープのように層を為しているのが面白い。 社会的な風刺も含めつつ、画面自体の幾何的な面白さも忘れない、バランスの 良い作品だ。 旧東ドイツの Huchschule fuer Grafik und Buchkunst Leipzig 出身の写真家が 3人いたのだが、いずれも、Becher schule に近い作風だったのも、印象に残った。 特に、ドイツ再統一後に整備された交通インフラを捉えた Hans-Christian Schink の "Traffic Projects German Unity" シリーズは、その社会的な風刺の含意と 幾何的な画面の美しさが、Gursky に似ているようにも感じた。 そんな中に混じると、Michael Schmidt や Wolfgang Tillmans の作品は、いかにも sub-culture 的だなぁ、とつくづく感じた展覧会でもあった。 この展覧会に併せて、所蔵作品展示3Fの写真コーナーでは、主に大戦間期に活躍した 3人 Karl Blossfeldt、Laszlo Moholy-Nagy、Albert Renger-Patsch の写真作品の 展示をしている。Renger-Patsch の展示写真は戦前ながら近代的な工場の写真を 捉えた Neue Sachlichkeit な写真で、Becher のルーツとも感じられ、とても興味 深かった。 また、2Fでは August Sander の有名な写真集 _Face of Our Time_ (1929) から 60点の写真を展示している。以前に観たことのある写真もけっこうあったが、 これだけまとめて見たのは初めて。並べて見ると、農民や労働者階級と中産階級が はっきり違うのが判って少々残酷にも感じられたが、George Grosz の風刺画に いかにもでてきそうな人物像も少なくなく、面白く観ることができた。現代社会 にはもはやこういうスタイルの人はいないだろうという人物像は少なくない中、 「専門職に従事している中産階級のカップル」 ("Professional Middle-Class Couple", 1927) は現在に通じるところもあり、こういう層のライフスタイルが 現代の先進国社会のライフスタイルの原点にあるのだろうなぁ、と思ったりもした。 2005/12/10 嶋田 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/talk/index.html