水と油 『均衡』 世田谷パブリックシアター 2006/02/25, 18:00-19:30 - 水と油: じゅんじゅん (高橋 淳), ももこん (藤田 桃子), おのでらん (小野寺 修二), すがぽん (須賀 玲奈). 1995年に結成された mime / physical threater のカンパニー 水と油 の最新作は、 10年目にあたり活動休止する直前の最後の作品となった。それも、この10年に作り だしてきた表現語彙の集大成ではなく、むしろそれをひとまず措いて、新しいことを やりたいのだろうか、という印象を受けた作品だった。 mime の面白さの一つに、実際には働いていない力 (解り易い例では、軽い鞄に かかる大きな重力、吹いていない風による風圧の力、見えない壁からの抗力、など) を身体の動きで表現するというものがある。『机上の空論』 (2002) や『急降下』 (2003) は、この mime ならではの身体表現を駆使して、複数の重力方向を舞台の 上に混在させる面白さが際だった作品だった。そして、最新作の『均衡』では、 複数の重力方向の表現は、全くではないが、ほとんど無くなっていた。 今回の作品では、ホテルにおける、もてなす側のホテルマンともてなされる側の 宿泊客というイメージを多用しており、もてなす側ともてなされる側の逆転が テーマの一つとなっていた。そしてその2者の隔てるための小道具が、カウンター テーブルと扉だ。特に、カウンターテーブルの四つ足にはキャスターが付けられ、 その可動性が、主客の可変性の表現に活用されていたのが面白かった。特に、この テーブルを速い速度でステージ上を滑べらせて、4人のパフォーマーがそれに絡む シーンは、その動きの速さだけでなく、カウンターのこちら側とあちら側という 意味の切り替わりとその境界線の動きの速さという点でも、この作品の見所の 一つだろう。 一方、空間の分節とその変容の表現という点では、洗練されてきているという 印象を受けた。例えば、『机上の空論』では、机の上下と左右端という4つの 分節された空間はほぼ固定的だった。『移動の法則』 (2005) では可動の白壁と いう大きな道具を使っていた。しかし、『均衡』では、白壁ではなく、シンプルに 扉やキャスター付きカウンターを使うことにより、区切りは柔軟に動き続けるもの になっていた。それも、舞台空間をスクエアに区切っていくよりも、局所的な 区切り線をその時々で発生させるといった具合だ。そして、局所的な区切りに 留めることは、その区切りのこちら側と向こう側 (主客) の曖昧さという主題の 表現にも生かされていた。あと、扉を、その内側と外側という空間分節として使う だけでなく、ライティングと併せて扉へ向かうアプローチの線状空間を表現する のにも使っていたのが面白かった。 そういう点で、舞台の上を歩き回るだけでも舞台上の空間の分節とその変容が 表現されていくパズル的な動きの面白さは洗練されたと感じた。その一方で、 複数の重力方向の表現のようなものがほとんど無くなったし、高さ方向の動きも 少なめで、物理的な身体表現という点ではもの足りなくも感じた。そういう点で、 宿泊客やホテルマンという役とその変容を演じる無言劇に近いものとなったと いう印象も受けた活動休止前の最終作だった。 sources: 水と油, http://www.mizutoabura.com/ 世田谷パブリックシアター, http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/ 『均衡』 at 世田谷パブリックシアター, http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/jouhou/05-2-4-52.html 2006/02/26 嶋田 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/talk/index.html