Le Ballet De L'Opera De Lyon 神奈川県民ホール (日本大通り, 関内) 2006/03/04, 18:00-20:00 フランス (France) 国立のリヨンオペラ座バレエ団 (Le Ballet De L'Opera De Lyon) は contemporary dance 中心のレパートリーを持つカンパニーだ。今回の来日公演は 女性振付家特集。このカンパニーを観るのは初めてで、カンパニーの色が判った という感じではなかったが、3人それそれの振付家の色の違いも楽しめた公演だった。 3作ともほとんど舞台美術らしきものを使わないミニマルな舞台で、全て音楽に クラッシックを使ったものという、共通点があるにも関わらず、ここまでテイストが 異なるか、というのも面白かった。 _Die Grosse Fuge_ - choreography: Anne Teresa de Keersmaeker. - premier: 1992, Rosas. - music: L. von Beethoven, _Op. 133, "Grosse Fuge" for String Quartet_. まずは、ベルギー (Belgium) のカンパニー Rosas の de Keersmaeker による作品。 バトンを低く下ろしたり、舞台両脇にスタンドを並べ、照明機材を観客に視野に 入れるという点で、もっとも舞台美術の存在を感じた作品だった。腕を伸ばして 空間に線を描いていく所も de Keersmaeker らしいと思ったが、男性7人女性1人 という編成が Rosas と違って、その差が興味深かった。最近の Rosas はあまり 床をころげ回るような動きを使わないように思うのだが、この作品ではその動きが 印象に残った。 _Fantasie_ - choreography: Sasha Waltz. - premier: 2006/2/12, La Ballet De L'Opera De Lyon. - music: Franz Schubert, _Op. 103, Fantasie D.940_ (1828). 続いて、1999-2004年 に Schaubuehne am Lehniner Platz, Berlin のダンス部門の 監督を努めた Waltz の作品。今回の3人の中で最も若手だ。Waltz の作品は初めて 観るが、これもドイツの tanztheater の伝統だろうかと思うくらい、今回の3作品の 中で最も演劇的だった。踊るというより暗めの照明の中を蠕き回るという展開は、 舞台装置を使わずシュールさを感じさせてくれるようだった。それだけでは飽きた かもしれないが、手を広げて舞台じゅうを走り回るという展開もあり、動きの メリハリがあったのも良かった。 _Groosland_ - choreography: Maguy Marin. - premier: 1989/2/20, Het Nationale Ballet, Nederlands. - music: J. S. Bach, _Brandenburg Concerto no.2 in F, BWV 1047_, and _Brandenburg Concerto no.3 in G, BWV 1048_. 最後は、今回の3人の中で最もベテランになる Centre Choregraphique National de Rillieux-la-Pape, France の Marin。非ダンス的とされる動作からダンスを 作り出して行く所といい、労働者階級の太った中高年の男女 (カタログには 「太ったブルジョア」とあるが、ブルーの服は明らかに労働者階級のものだろう) の動作という題材の選び方といい、Marin らしいと感じる作品だった。 前に観た _Les Applaudissements Ne Se Mangent Pas_ (2002; 世田谷パブリック シアター, 2003) はラテンアメリカの圧制下の民衆からその動作 (例えば、崖から 投げ捨てられる死体のころがる様子等) を取った作品で、電子音の音楽といい シリアスな印象を受けるものだった。しかし、今回はダンサーに太った体形の 着ぐるみを着せ、太った人がするような動作を早回ししたかのようなピョコピョコ した動きも実にユーモラスなダンスを展開した。そして、こういうユーモラスな 作品も良いと思った。今回観た3作品の中でも最も楽しんだ作品だった。 Marin に限らず同様の作品、例えば、老いたダンサーの動かない身体をテーマ とした _Birth-Day_ (2001) や非バレエ的な動きとしてエアロビクスをユーモラス に対比した _Symphony In D_ (1976) といった Jiri Kylian の作品を観て思うこと なのだが、このようなダンスと非ダンスの境界とそのイデオロギー性をユーモアも 交えつつ暴くような作品は、確かに非常に自分の好みではある。しかし、その一方で、 このような作品は、観ていて笑っていいものか戸惑う所もある。それでも、 _Birth Day_ の場合はダンサー自体が老いた身体を持っており、その表現の可能性の 追求という面も感じられる。しかし、この _Groosland_ の場合はダンサー自体は 特に太った身体を持っているわけではない。そんな中では、太った人ならではの 動作の「優雅さ」の表現と諷刺は、紙一重の危うさがあるように思うのだ。 _Symphony In D_ を観たときに感じたように、バレエの動きが正しく美しく、 滑稽なのは労働者階級の太った中高年の動きである ―― Marin の意図とは逆かも しれないが ――、と感じさせてしまいかねない所があったとも思う。 sources: Le Ballet De L'Opera De Lyon, http://www.opera-lyon.com/ballet-spectacle-danse/index.php 神奈川県民ホール, http://www.kanagawa-kenminhall.com/ Anne Teresa De Keersmaeker / Rosas, http://www.rosas,be/ Sasha Waltz, http://www.sashawaltz.de/ Maguy Marin, http://www.compagnie-maguy-marin.fr/ Cie Maguy Marin, _Les Applaudissements Ne Se Mangent Pas_ レビュー http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/03102301 NDT III, Jiri Kyrian (choreography), _Birth Day_ レビュー, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/02100501 東京バレエ団, Jiri Kyrian (choreography), _Symphonie in D_ レビュー http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/01111701 2006/03/05 嶋田 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/talk/index.html