照屋 勇賢 『水に浮かぶ島』 すみだリバーサイドホール・ギャラリー 2006/6/17-7/18 (無休), 10:00-19:00 2004年の『第2回府中ビエンナーレ ― 来るべき世界に』で観たビザボックスを 使ったワークショップ作品がとても印象に残っている沖縄出身のアーティスト 照屋 勇賢 の個展を観てきた。主催がアサヒビール芸術文化財団ということもあり、 今回のテーマは「ビール」だった。 正直に言えば、「ビール」をテーマとした新作よりも、一緒に展示されていた 旧作の方が楽しめたのも確かだ。特に、『府中ビエンナーレ』で観た落下傘兵や 戦闘機の紅型の衣装『結い (Youi)』や、『横浜トリエンナーレ2005』にも出展 していた使い捨て紙袋から木の形を繊細に切りぬく『告知―森 (Notice-Forest)』 シリーズ、そのバリエーションでもあるトイレットペーパーの芯から木の形を 切りぬく『Rain Forest』 (2006) といった作品は、彼の代表作と言えるような 強さを感じた。 一方、この展覧会のための作品の中で最も印象に残ったのは『空の上でダイヤモンド とともに』(2006)。ビニールハウスの中に墨田区の放置自転車注意の札を付けた 自転車を4台を並べ、そのフレームに沖縄の蝶オオゴマダラの蛹を付けた作品だ。 もちろん、蛹は既に羽化し、自転車には蛹の殻を残し、大ぶりの白黒まだらの蝶が ハウスの中を飛び回っていた。正確には、中に入るまで特に止まってじっとしていた ためにそれに気付かず、中に入ってぱっと飛び回り出したときは少々びっくりした。 沖縄でオオゴマダラの蝶々ハウスを運営している琉球城蝶々園が協力にクレジット されており、ささやかながら、その気分を東京にいながら楽しめたかもしれない。 ちなみに、人懐っこい蝶らしく、赤い服や帽子であれば止まることもそこにとまる こともあったようだ。 白い蝶がふわふわ飛ぶ姿を単純に楽しんだが、しかし、テーマ「ビール」との 関わりや、タイトルとの関わり、どうして放置自転車なのかなど、意図を捉えかねる ところも多い。ビールとの関わりをいえば、麦粒のような形の蛹からビールの泡の ように白くふわふわとした蝶が出てくる、というのがありそうである。しかし、 それ以外は、今のところ自分には不明だ。 照屋の作品は、判り易いマクロな状況認識のテーマから演繹するのではなく、 個人的もしくはローカルなミクロな状況認識からアプローチするものが多い。 『第2回府中ビエンナーレ』の際のビザボックスの作品にしても、米軍ヘリ墜落事故 における「ピザ配達事件」が背景にあり、それを知らないと意図不明な作品だった。 放置自転車を使うのも、それに似たような社会的事件、もしくは作家の個人的な エピソードが背景にあるのかもしれない。6/22にあったアーティストトークを 聴いておけば、その理解の鍵を得ることができて、もっと楽しめたかもしれない とは思った。 しかし、雄弁ではないささやかなメッセージ性も、この作家の良いところかも しれない。強烈な印象を残す作品ではないが、少なくとも数年くらいはなんとなく 蝶のことが印象が残っていそうだ。すぐに謎解きできなくても、数年後に何かしら のキッカケで、あの蝶とあの放置自転車はそういうことだったのかとふと気付く くらいがちょうどいいのかもしれない、と、ふわふわと飛ぶ蝶を観ながら思った のも確かだ。 sources: 照屋 勇賢 『水に浮かぶ島』 @ アサヒ・アート・フェスティバル, http://www.asahi-artfes.net/program/b.html すみだリバーサイドホール @ 墨田区 http://www.city.sumida.lg.jp/sisetu_info/tamokuteki/sumidariversidehall/index.html 『第2回府中ビエンナーレ ― 来るべき世界に』レビュー, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/04121201 蝶々ハウス @ 琉球城蝶々園, http://ryugujo.net/01butterfly/index.html 2006/07/17 嶋田 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/talk/index.html