タムラ サトル 『14の白熱灯のための接点』 ギャラリーQ 2006/07/24-2005/08/05 (7/30休), 11:30-19:00 (08/05 11:30-17:00) 「スピンクロコダイル」 (1997) 以来、「バタバタ音をたてる2枚の布」 (2000)、 「縦方向に回転する木の円盤」 (2000) など、機械的な動きの持つ迫力そのものを 作品化してきた タムラサトル の新作を含む「接点」シリーズの展覧会だ。 2001-2004年の「Weight Scalputure」シリーズは動きが無く、コンセプチャルな 方向に向かっているような印象を受けた。しかし、電気接点火花に焦点を当てた 「接点」シリーズは、体感的という点で、むしろ初期の作品の雰囲気に戻っている。 「10の白熱灯と7本の蛍光灯のための接点」 (2005) は、走る電車のパンタグラフが 架線と擦れて火花を発している様子をそのまま模擬したような作品だ。この作品は、 家庭用のAC100Vがそのままかかっている架線とパンタグラフを模擬したような接点と、 それにつながる白熱灯蛍光灯からなる。そして、パンタグラフをブロワで間欠的に あおり、接点を入れたり切ったりする。パンタグラフが架線にぶつかり接点が入る 瞬間チャタリングし派手に火花が散る。そして、白熱灯蛍光灯が点く。このひたすら 繰り返しているブロワの音、接点火花とその音、白熱灯蛍光灯の間欠的な輝きが 織りなす迫力が、この作品の魅力だ。しかし、その一方で、接点を不安定にする ためにブロワを用いていること、電流の不安定さを直接反映しない蛍光灯を用いて いることなど、焦点が絞りきれていないという印象も受けた。 新作「14の白熱灯のための接点」は、摺動接点の接点火花と、白熱灯の強い光に 変えられた不安定な電流を体感する作品だ。通常の摺動接点はカーボン・ブラシなど 用いて接触を安定化し抵抗を抑えるのだが、この作品では一本の金属棒の一端を 金属板の上に這わせているだけだ。それも、金属棒はワイヤで吊るして引きずって いるので、ほとんど接触圧がかかっていない。そのため、接点の接触は不安定だ。 やはり印加電圧は家庭用のAC100Vだが、細かく火花を散らして棒先は鉄板の上を 這っている。そして、その不安定な接点を通して給電され、14個の白熱灯が またたいている。白熱灯は、単に接点からの電力を消費しているようであるが、 接点の不安定さを可視化する役割も持っている。「10の白熱灯と7本の蛍光灯の ための接点」 (2005) のような飛び散る火花や白熱灯蛍光灯の点滅といった派手さは 無いが、ジリジリと飛び続ける小さな火花と揺らぐ白熱灯の明るさの微妙さを 楽しむことができる。摺動接点と白熱灯に焦点が絞れているのも良いように思う。 また、白熱灯は一個だけ、金属棒を固定して小さな金属円盤を回転させることに よって不安定な摺動接点を実現した、小品も展示されていた。これも、ミニマルさが 火花と揺らぐ明るさを味わい深いものにしていたように思う。 しかし、AMラジオのようなものを持っていたら、接点火花が発生させている電磁 ノイズを音にして聴いてみたかった。展示していた作品は、接点の不安定さを 白熱灯等を使って可視化していたわけだが、ラジオを使って接点火花を可聴化する というのも面白いように思う。鉱石ラジオであれば電源も不要で、白熱灯1個の ミニマルな作品に組み合わせるのにうってつけのようにも思った。 sources: タムラ サトル, http://www.lares.dti.ne.jp/~mm25/tamura/ Gallery Q, http://www.mercury.sannet.ne.jp/galleryq/galleryq.html 『新世代への視点』, http://www.mercury.sannet.ne.jp/galleryq/galleries/galleries.html タムラ サトル 『ワニガマワルンデス』 (コマバクンストラウム, 1997) のレビュー, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/97092301 タムラ サトル 展 (現代美術製作所, 1998) のレビュー, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/98102402 タムラ サトル 展 (Oregon Moon Gallery, 1999) のレビュー, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/99071001 タムラ サトル 『電動雪山』 (ギャラリーアート倉庫, 2000) のレビュー, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/01072202 タムラ サトル 『Weight Scruptures 2』 (Gallery Q, 2005) のレビュー, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/05041601 2006/07/30 嶋田 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/talk/index.html