『越後妻有アート・トリエンナーレ 2006』 十日町市, 津南町 2006/7/23-9/10 新潟県妻有郡の十日町市 (十日町市、川西町、中里村、松代町、松之山町が2005年に合併) と津南町で開催されている三年ごとのアート・イベントの第三回。今回は、友人たちと レンタカーを借りて、1泊2日で観て回った。前回、前々回は一般のバスツアーということもあり、 一人で淡々と観て回るのに近かったけれども、今回はむしろ同好者たちと一緒に観る楽しみを 堪能できた。このような楽しみ方ができるも、広域の自然の中の野外アート・イベントならでは のように思う。 展示された全329作品のうち、2日間でパスポートにスタンプを押した作品は全部で63、流して 観たものも含めると観たのは70作品程度。観たのは主に津南、中里、十日町のエリアの作品で、 川西、松代、松之山のエリアの作品はあまり観られなかった。約1/5しか観ておらず、良い作品 の見逃しも多いかと思うが、今回初めて観た作品の中から印象に残ったものを、個別にコメント。 (()内の番号は公式パンフレット等で用いられている作品番号だ。) Christian Boltanski + Jean Kalman 『最後の教室』 松之山エリア (329) 3年前に続いて旧東川小学校を使ったインスタレーション。廃校という空間の人の不在感・喪失感 を演出するという点でも似た作品だった。前回は窓からの自然光も使っていたが、今回は窓を 完全に塞ぎ、闇の中にブロジェクタ投影やストロボ、野外用照明ライト等を用いて強い輝きを 作り、心理的なコントラストの強い空間を演出していた。その印象が強烈だった。 刀禰 尚子 + 飯島 敦義 『田園の枯山水』 中里エリア (197) ミオン中里脇の水田の真中に浮かぶガラスの四畳半。稲穂を砂・玉石に見立てた枯山水という ことで付けられたと思われる稲の高さの違いが作るテクスチャを遠目から観るのも悪くは無かった。 しかし、稲の高さに合わせたガラスのステージ上からの眺めの方が、テクスチャは判らないが 四方を広く緑に取り囲まれているようで、爽快に感じられた。 安 奎哲 『記憶の扉』 十日町エリア (36) 中越地震等で生じた廃屋の廃材 (特に引戸) を利用し、マトリクス状に空間を区切るよう引戸が 並んだ空間。その素材の社会的文脈とは別に、日本の家屋の一間を単位としたユニット構造が くっきり浮かびあがっている所も面白かった。 Leandro Erlich 『妻有の家』 十日町エリア (82) 伝統的な民家というより街中の比較的近代的な家の壁面を切り取り地面に置き、鏡面をそれに対して 45度で立てた作品。壁面の上に横になると鏡面を通して、家の壁面に人がへばりついているように 見える。思わず観客に家の壁よじのぼり遊びをさせてしまうような、判りやすい面白さが魅力だ。 半田 真規 『ブランコはブランコでなく』 中里エリア (180) エリア内11箇所に点在する、竹の櫓に下るブランコ。特に釡川橋から少し登った所にあった水田内の ブランコは、緑の上を飛ぶような楽しさだった。 青木 野枝 『空の水V』 中里エリア (173) 旧高道山小学校のプールを一面使った立体作品。盛り上がる波のようでもあり、自立する蚊帳の 枠のようでもある、鉄と樹脂の構造が面白かった。 Alfredo & Isabel Aquilizan 『ドリーム・ブランケット・プロジェクト』 十日町エリア (44) 中越地震時に避難所で使われたという使い古しのブランケットの積み重なりが、露頭のように 部屋の壁を覆った作品。使い古しブランケットという社会的文脈と層状のブランケットが織り成す 色彩とテクスチャーの面白さのバランスが絶妙だった。 Ernesto Neto 『水玉の壁と秘密の贈り物、見えない寺院』 十日町エリア (47) 天井や壁を和紙で白く貼られた空間に、昔の民家の家財道具が行列をなしている作品。柔らかな ネットも香りも使っていないのは意外だったが、行列がユーモラスだった。 Ayse Erkmen 『空き家プロジェクト』 十日町エリア (34) 中越地震の傷跡を残している民家内に通路を設けて、そのまま観せる作品。中に入れるだけ あって、全壊・半壊のような激しい被害ではないが、被害の様子は垣間見ることはできた。 一方、これでは単にそのままではないかとも思った。外壁周辺に蔦が植えられ、将来的には蔦に よってこの建物は封印されるとのこと。そこまで含めて作品なのだろうか。 会場になった新潟県妻有は2004年10月23日の新潟県中越地震の被災地であったため、 安 奎哲、A. & I. Aquilizan、A. Erkmen の作品のように、それに関係する作品が目についた。 十日町ステージ「キナーレ」の脇には、2年近く経った今も被災者仮設住宅が建ち並んでおり、 まだまだ震災は終わっていないようであった。その一方で、2006年初旬に津南町を襲った豪雪に 関する作品が見当たらなかったのも、少々意外であった。 sources: 越後妻有アート・トリエンナーレ, http://www.echigo-tsumari.jp/ 新潟県中越大震災に関する情報 @ 新潟県, http://www.pref.niigata.jp/content/jishin/jishin_1.html 津南・栄村 GO雪共和国, http://www.go-setsu.com/ 越後妻有アート・トリエンナーレ 2006 写真集, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/photoalbums/Tsumari2006/index.html 2006/08/08 嶋田 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/talk/index.html