石内 都 『Mother's』 東京都写真美術館 2006/9/23-11/5 (月休;10/9開,10/10閉), 10:00-18:00 (木金10:00-20:00) La Biennale di Venezia 2005 の日本館で企画された展覧会を再構成しての展覧会だ。 1990年代以降何回かグループ展で石内の作品を観ているが、肌理がわかるくらいの クロースアップで若くはない女性の肌や傷痕を撮った白黒写真で知られる作家だ。 クロースアップであるため匿名的になり、抽象的な肌理質感を訴えるようであり、 年を経た肌や傷痕という物語を想起させやすいものを突き付けて、物語性が浮かび あがるかあがらないかギリギリな所を狙うような作品だ。 今回の作品は、自分の母親の遺品である下着や靴、使いかけの化粧品などを、 クロースアップ気味に撮った写真で、それも、ほとんどが大判のプリントだ。 今回は白黒写真だけではなくカラー写真も含まれている。そんな写真の合間に、 生前に撮った母親の火傷痕などのクロースアップの白黒写真がいくつか置かれている。 しかし、下着を撮るにしても、その置かれた場所なども写し込むことによって、 その物が持つ物語を語らせるのではない。むしろ、背景は白くして置かれた場所を 捨象している。クロースアップで写し込まれた生地のよれや洗濯しわ、毛玉などが、 それが新品ではなく着古されたもの ― 何らしかの時間を経た物語を持つもの ― であることに気付かされる。 化粧品や櫛のような肌理のレベルまで落し込まれていない写真があったからか、 遺品ということを知ってしまっていたせいか、今まで観た作品の中では最も感傷的に 物語るような作品という印象を受けたが、傷痕のクロースアップの白黒写真などより、 いい意味で判り易い作品だったようにも思った。 ビデオ作品も2作上映されていて、下着と赤い着物についてそれぞれカラーで クロースアップで舐めるように捕えた作品だった。映像にすると写真以上に感傷的 なると感じたが、それは下着を撮った作品の方に音楽が付いていたからかもしれない。 1970年代後半の一連の作品『絶唱・横須賀ストーリー』『アパート』『連夜の街』が 会場でディスプレイでスライドショー的に観ることができるようになっていた。 1990年代以降の作品しか観たこと無かったので、昔はこんな写真を撮っていたのかと 感慨深く観たが、粗い白黒写真という印象くらいしか残らなかった。 sources: 東京都写真美術館, http://www.syabi.com/ 2006/09/24 嶋田 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/talk/index.html