『写真の現在3 臨界をめぐる6つ試論』 _Photography Today 3: Resolution/Dissolution_ 東京国立近代美術館ギャラリー4 2006/10/31-12/24 (月休), 10:00-17:00 (金10:00-20:00) - 鈴木 崇, 向後 兼一, 伊奈 英次, 小野 規, 浅田 暢夫, 北野 謙 日本の同時代的な写真作品を紹介する第3回。第1回は1998年、第2回は2002年、と いうことで4年おきに開催されているが、観るのは今回が初めて。 『サイト・グラフィックス』 (川崎市民ミュージアム, 2005) と方向性が似た 写真展だった。コンセプチャルな風景・人物写真というか、即物的に撮った 写真から空間や人物象のイデオロギー性を浮き上がらせるような写真作品を 中心とした展示だった。こういう写真は、Becher 以降というか、Becher schule 以降と感じるものだ。展覧会中で特に印象に残ったものについて、個別にコメント。 以前から好きな写真家だが、伊奈 英次 の作品はやはり印象に残った。『Cover』 シリーズ (2005-6) は工事中でシートに覆われたたビルを白黒で撮った写真だ。 これは、ビルの建設現場を撮った『In Tokyo』シリーズ (1985) の自然な延長と いえるだろう。むしろ、意外だったのは『Watch』シリーズ (2002-2005) だ。 こちらは、都市のあちこちにある監視カメラをカラーで撮ったもので、都市毎に 分類した写真をマトリックス状に並べてプリントしている。構図、色、カメラの 形状などを意識させるような構成ではなく、雑然とカラフルな印象を受ける構成 だったのが、自分の知る伊奈の作風にしては意外だったし、面白く思った。 こういうプレゼンテーションは、私小説的に都市の風景を撮り溜める写真家が 好むやり方のように思うし、そこに写り込んでいるのが親密な人物像ではなく 監視カメラを持ってくるところ、良い批判精神を感じた。 初めて観た写真家では、パリ (Paris, FR) 郊外の風景を撮った写真を展示 していた 小野 規 が印象に残った。歴史的文脈を感じさせない都市郊外の風景を、 通りに付いた過去の画家の名前と対比させて、際立たせていたり。しかし、 むしろ、郊外の風景写真の画面の中にさりげなくエッフェル塔を写し込む 『塔を眺める』 (_View (With The Tower)_, 2002-2006) シリーズや、横一列に 並べずに額装床置きの展示方法に、Wolfgang Tillmans の影響を感じさせられた。 北野 謙 『Our Face』シリーズ (2001-2004) は、ある集団に属する人々の ポートレートを重ね焼きするという作品だ。類型的な写真を並べて展示すること により個々の差違と共通点を際出させるのではなく、重ね焼きすることにより 具体的な人物像をぼやけさせていく。そんな中で、人々の平均的で類型的な 人物像が浮かび上ってきそうで、捕え所がない所が、面白かった。 sources: 『写真の現在3 臨界をめぐる6つ試論』 @ 東京国立近代美術館, http://www.momat.go.jp/Honkan/PhotographyToday3/index.html 『サイト・グラフィックス』展レビュー, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/05030501 2006/12/24 嶋田 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/talk/index.html