1930年に自殺したロシア前衛の詩人Vladimir Mayakovskiの名前を知ったのは、 Billy Bragg "Talking With The Taxman About Poetry"(Go! Discs, AGOLP6, LP, '86)というレコードでだった。UKのポストパンクのシンガーソングライター であるBilly Braggのこの2ndアルバムの題名は、Mayakovskiの1925年の詩集の 題名の英訳から取られたもので、そのLPの内袋にはその詩の英訳が載っていた。 去年の夏、偶然に水野 忠夫「マヤコフスキー・ノート」(中央公論社)という 本を図書館で見つけて読んでみたのだが、その本ではAlexander Rodchenkoの 名前はほとんど見出すことはなかった。 ロトチェンコの実験室 ワタリアム美術館 95/12/1 - 96/5/6 - Alexander Rodchenko, Varvara Stepanova この展覧会は、20年代のロシア前衛の中でも無対象主義と言われる流れの中の 美術作家であるAlexander Rodchenko (ロシア語名ではAleksandr Rodchenko)と、 その妻Varvara Stepanovaの回顧展である。 20年代のロシア前衛の画家といっても、僕はKazimir Malevichくらいしか知ら なかった。この展覧会を観に行っても、ロシア前衛を概観するような展示は ない。ただ、Rodchenkoという作家を知ることができたのは良かった。 Rodchenkoは、Mayakovskiが編集していた雑誌"Lef"の表紙デザインを手懸け たのをはじめ、二人はかなり共同作業をしていた。Mayakovskiがコピーを書き Rodchenkoがデザインした広告ポスターや、Rodchenkoがフォトモンダージュの 挿画を作ったりデザインしたMayakovskiの本や雑誌"Lef"が、二階展示室で観る ことができた。その中には、Billy Braggが引用した"Talking With The Taxman About Poetry"もあった。また、レニングラードの国立出版所の広告デザインを ここで観て初めて、The Ex "6.1-6.6" (Ex, '91)のジャケットデザインが、 このRodchenkoのデザインに基づいていたことに気付いた。(クレジットを見たら ちゃんと書かれていたが。) ハンガリー構成主義やBauhausの展示を観ても思うのだが、この頃の前衛作品は 絵画や彫刻の作品よりも、デザインのほうがずっと良く思う。Rodchenkoのも、 後の再制作のせいもあるのか、空間構成の作品などは仕上げの粗さが気になる。 アイデアに制作技術が追い付いていない感もある。 三階はStepanovaの洋服デザインなど。演劇の衣装など、Bauhausと似ている。 四階の展示は写真が中心。思いっきり見上げる/見下ろすアングルの写真は面白い ところもあるが、30年代後半のマスゲームなどを写したものなどは、良くない。 34年に第一回ソヴィエト作家大会で社会主義リアリズムが唯一のスタイルとされ、 ロシア前衛は終焉するわけだけれども、その現実を見たような気もした。 二階のポスターや本や雑誌のデザインが、この展覧会で最も面白いものだろう。 特にMayakovskiとの共同制作は、とても興味深いものがあった。 ワタリアム美術館はパスポート方式で、一度パスポートを買ったら何回でも 入場できる。会期もまだまだ長いので、青山界隈に行ったときにでも寄って 気分転換に使うのも良いだろう。 ところで、この美術展のカタログ代わりに、次のような本が出ている。 ワタリアム美術館 編 「ロトチェンコの実験室」 (新潮社, ISBN4-10-408701-7) 作品の図版が観られるのは嬉しいし、柏木 博「ロトチェンコの広告」など、 良い文章もある。が、不満も多い。特に、Rodchenkoの「総合的肖像に反対し、 スナップショットに賛成する」のような文章が載せられなかったのは、大きな 欠陥だろう。作家などの固有名詞の元の綴りや、作品の題名の元題が無いなど、 資料的な点が欠落しているのも問題がある。縦書きというのも読み辛い。 ワタリアム美術館のミュージアムショップでは、ロドチェンコ・グッズとも いえるようなものをいろいろ売っているが、Mayakovskiの詩集"Talking With The Taxman About Poetry"の表紙デザインのTシャツがあったので買って しまった。Mayakovskiがかっこいい。 Soundtrack for this exhibition: Billy Bragg "Talking With The Taxman About Poetry" The Ex "6.1-6.6" 96/1/22 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕