Godardの映画は、仕事帰りにレイトショーのがらんとした劇場で観るに限ると思う TFJです。疲れた頭にGodardのまともに笑う気のしないギャグはちょうどいい。 「ワン・プラス・ワン」 (Cupid Productions, '70 / Comstock '96) "One Plus One" - directed by Jean-Luc Godard - The Rolling Stones (Mick Jagger, Keith Richard, Brian Jones, Charlie Watt, Will Wyman), Anne Wiazemski, etc - 1973, 白黒, 220分 「ジャッキー」ピシパシ「毛沢東万歳」。この映画で最も笑えるシーンはこれだ。 この映画の中のあちこちで延々と朗読されるような「官能小説」のペーパーバックや、 "Playboy"や"Penthouse"も含む「男性誌」が並ぶ書店で、男性店員は延々と左翼主義 的な本を延々と読み上げているのだが、それをジャッキーおぼしき女性店員が延々と タイプしている。通常はそれを買うとは思えないような客が、本を選び男性店員に 渡すと、彼は「ジャッキー」と呼んでタイプした紙を受け取り、本に添えて返し、 そして、部屋の隅に腰掛けた男2人を差す。客は挙手敬礼すると、その2人に近づき それぞれにピンタを食らわす。ピンタを食らった2人は「毛沢東万歳」と言う。 こんなシーンから性と経済の社会機構や紋切型なスローガンの内容について議論する ことも可能かもしれないが、そんな気にもなれないほどの脱力するような笑いが ここにはある。 その他にも、この映画ンには、Anne Wiazemskiの映画撮影現場、米国黒人解放運動 家のアジトおぼしき廃物置場、スプレーによるいたずら書きシーン、といった要素が 非常に結び付きの弱い形で併置されている。そのどの要素も主導するものはない。 しかし、こういう映画は劇場で観るものだろうか。特に集中することなくビデオで 繰り返し断片的に観たいような気もする。 しかし、強いて、この映画を主導するものを挙げるとしたら、The Rolling Stonesの "Sympathy For The Devil"の制作・録音シーンだろう。特に、Mick Jaggarの歌と 一緒に「ウッウー」というコーラスがアフレコする場面がこの中でも最も観るに 値する場面かもしれない。そして、エンディングで、倒れたAnne Wiazemskiを乗せた カメラ台が空に舞う背景に流れる、このコーラスの入った"Sympathy For The Devil"を 聴くとき、もはやこのコーラスが自然なものではないということに気付くのだ。 確かにGodardの映画の中では、笑える場面の組み合わせも少ないし、はっとさせる ような力は強くはない。けれども、仕事帰りにふらっと気晴らしに観に行くには、 充分な内容だった。 しかし、ゴールデン・ウィーク頃からやっているロングランの割には、ひどい客の 入りだった。ううむ。単に他に上映するものが無いのか。 96/7/4 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕