金曜は財布を持つのを忘れてハマったTFJです。小銭入れの数百円では、仕事帰りに 音盤を買いにいくことも、いつものようにいきつけのジャズ喫茶で晩を過ごすことも できない。しかし、以前にはずみで買ったレイトショーの前売券が鞄の中から出て きたので、ふらふらと映画館に転がり込むことにした。 ・ ・ ・ 「万事快調」 (広瀬プロダクション, '96) "Tout Va Bien" - France, 1972, colour, 95min - directed by Jean-Luc Godard and Jean-Pierre Gorin - Yves Montand, Jane Fonda いきなり、映画がどう出来ていく/出来ているのか説明するかのような、そんな シーンで幕をあける。この映画はこのような枠組みで作っていますよ、という 種明かしを最初にやっている感もあり、照れ隠しっぽくもあり、素直に見るなよ という警告のようでもあり。 「普通は愛の物語ね」ということで、Yves Montand演ずる広告業界の男と、Jane Fonda演ずる女性ジャーナリストの、愛の物語ともいえる。が、結局のところは、 「ラブソングはイデオロギー的に不健全である」というAndy Gill (Gang Of Four)の 言葉を借りれば、この映画は「ラブストーリーはイデオロギー的に不健全である」 といったところ。 「普通の愛の物語」なら、男女が会って映画でも観て一緒に食事してセックスを して、といったところを、その恋愛を支えている社会構造を検討する映画といった ものに仕上げている。まあ、それはGodardのよくやるやり口といえばそれまでだが。 というわけで、それがどこまで笑えるかがGodardの映画のポイントだと僕は思って いるのだが。最初のうちの工場監禁のシーンは絶好調で、特に社長が非常によい。 が、2人が工場から解放されてからが、最低。工場監禁について、主人公2人がどう 考えるかという内面記述に走ったかのような仕上がりが敗因か。そのせいで、 五月革命や新左翼に対する感傷とでもいうような物が画面から臭ってしまう。 最後の「お伽話に興味のない大人のためのお伽話」という字幕が救いか、それとも 言訳がましいか。作品内でこんなに出来に振幅があるのもすごいと思ったが。 あと、80年代以降のGodardは形式主義的な面がぐっと強くなると思っているけど、 まだこの頃は60年代の作風をひきずっているな、などと思ってしまった。 ・ ・ ・ さて、このときにフライヤを拾ったのだが、Jean-Luc Godardの「気狂いピエロ "Pierrot Le Fou"」と「勝手にしやがれ "A Bout De Souffle"」が、例のカルチュア・ パブリッシャーズから3,800円の廉価セル・ビデオ発売されるようだ。これもいいけど、 「男性・女性 "Masculin - Feminin"」出してくれないかな。60年代のGodardの中で 一番と僕が勝手に太鼓判を押している作品なのだが。 96/9/1 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕