土曜は朝からバスに揺られて伊香保に向かったTFJです。しかし、遠い。半ば うつらうつらしつつ曇天の車窓の外や雑誌を眺めること3時間余..。今回はバスが 快適だったので良かったが。もちろん、杉本 博司 展のオープニングの レセプション・パーティに出席するために。 ・ ・ ・ 杉本 博司 展 ハラ ミュージアム アーク, 群馬県渋川市金井2844 (渋川, グリーン牧場前) 96/9/14-12/15, 10:00-16:30, 木休 ニューヨークのメトロポリタン美術館で開催された杉本博司展を再構成した展覧会。 新作ともいえる「千体仏 "Hall of Thirty-Three Bays"」で1ギャラリーと、 「海景 "Seascape"」連作を昼のものと夜のものとで1ギャラリー毎の、展示に なっている。「劇場」連作、「ジオラマ」連作は無い。 展示はぜいたくだ。ギャラリーの壁は映りこみを防ぐために全て濃い灰色。これに、 杉本のゼラチンシルバープリントのモノクロ写真がやたらに渋い。「千体仏」の ギャラリーは自然光のみを使っている。「海景」のギャラリーは人工光のみで、 映りこみを防ぐために、片面の壁のみの展示になっている。 ある意味で、彼の多くの作品は積分された写真だ。「劇場」連作の場合、まさに一枚の 写真は、劇場の風景を上映時間中にわたって積分した結果である。「海景」連作、 「千体仏」連作の場合は、ちょっと微妙だが、一見同じように見える写真の差を見る、 つまり鑑賞という行為が一連の作品の微分 (連続ではないから正確には差分) をとる という意味で、作品自体は積分した結果ともいえる。だから、例えば「海景」連作は 離れて一度に何枚も見える位置で観た方が面白いと、僕は思う。 「海景」連作にしても「千体仏」連作にしても、一枚だけの展示というのがあまり 意味をもたないだけに、もっと展示方法やカタログの構成に凝っても良いのではないか、 と僕は思っていた。しかし、今回もカタログはよくある一見開き一枚のものだったし、 展示もいままでと同じく横一列の展示だった。 杉本本人とこれについて話をして、想像以上に一枚一枚の細部や完成度にもこだわって いることがわかった。まあ、確かに一枚だけ見てもとても奇麗な写真なのだが。 壁を埋め尽くすように写真を展示したら鑑賞者の焦点がぼけるし、一頁に何枚も写真を 載せると細部がつぶれてしまう、ということを気にしていた。「千体仏」連作は、 そういう意味では、「海景」連作で看過されがちだった細部へのこだわりを、より 表面に打ち出した作品かもしれない。なぜなら、この作品を「微分」するためには、 細部を見なければならないからだ。と、話をして妙に納得させられてしまったのだが、 やはりもう一工夫する余地があるような気がする。何か物足りないのだ。それが何 なのかは、今後の課題ということか。 しかし、杉本は大人気。話をしようにも、いつも誰かと話している。気後れしていた こともありあきらめかけたが、あきらめても何も得ることはない決心して、Gallery Koyanagiのオーナーに連れられ業界関係者の席に連れていかれる途中で、半ば強引に 引き止めて話をしてしまった。それでも快く話に応じてくれた杉本博司は、想像して いたほど若くはなく、ちょっと職人気質を感じる人だった。 しかし、バスツアーも二台編成ということで大盛況。ギャラリーも人が多くて、 作品を鑑賞するのに良い雰囲気とはとうてい言えないのが残念だった。今年の年頭の "Tranquility"展のような静謐な雰囲気で鑑賞したい作家だ。 好例のCafe d'Art企画ケーキは、今回は"Monochrome"。杉本 博司の「海景」連作を イメージしたクリームチーズケーキ。ブラックのベースの部分はココアが効いていて、 それが意外に合っていて、とても美味しい。去年の河原温の"Date Painting"な ケーキに匹敵すると思う。おすすめだ。杉本博司展に行ったら、ぜひ食べて欲しい。 96/9/16 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕