1996年に観た美術展など10選。 第一位: Gallery - 21世紀への都市芸術プロジェクト (東京ビッグサイト, 96/8/1-25) 検閲という現実を忘れないために。 第二位: 加藤 力 on "Morphe '96" (表参道同潤会アパート10号棟階段・屋上, 96/11/22-12/7) あの場所を見つけた時点で、この作品は成功していた。 第三位: 八谷 和彦 - 視聴覚交換マシン on "アートは楽しい7 - In/Out" (ハラ・ミュージアム・アーク, 96/7/20) あまり相手の身になってみたいと思っていなかった男友達との体験よりも、順番 待ちの間に聞いた、視聴覚交換マシンを付けたカップルが付けたばかりの向かい 合った状態で交わした「おまえ、いつも俺の胸を見ているのか。」「高い〜。」と いう会話の方が、衝撃的だった。 第四位: 養老天命反転地 (岐阜県立養老公園, 常設) 怪我人続出の噂の聞いて、ぜひ転びに行かねばと小雪降る2月に駆けつけたArakawa + Madeline Ginsの不思議の国は、もし多くの友達が一緒にいたら皆でそこで雪合戦を 始めたくなるような場所だった。 第五位: Tranquility - 静謐 (千葉市立美術館, 96/1/4-2/25) 杉本 博司 展 (ハラ ミュージアム アーク, 96/9/14-12/15) Michel Verjuxの丸い光や、宮島 達男の青いLEDの光に、静かに息を飲んだ。そこに 並んだ杉本 博司の「海景」シリーズも悪くはなかったが、ハラ・ミュージアム・ アークの空間を贅沢に使った渋い展示には、とてもかなわない。 第六位: 「ジャン=ピエール・レイノーの家 1969-1993」(映画/ビデオ) (ユーロスペース, ESV-015, '93/'96, VHS) 確かにArvo Partの音楽に白タイルも美しかったが、意外に饒舌なRaynaudが彼の家 との関係を語るに用いる恋愛・結婚生活の比喩が笑える映画だった。 第七位: ダニエル ビュレンヌ展 - 透きとおった光 (水戸芸術館現代美術ギャラリー・広場, 96/8/3-11/10) ギャラリーのインスタレーションでなく、「全ての正方形の窓:枠、枠の中、菱型」を 建物の周りじゅう探して歩いていてみつけた、噴水裏の正方形の窓の淡い光の美しさ、 水戸芸術館側の歩道から交差点越しに見た横断歩道と出光ガススタンドからなる シマシマの塊ともいえる光景の面白さが、この展覧会で良かったところだ。 第八位: 火の起源と神話 - 日中韓のニューアート (埼玉県立近代美術館, 96/10/12-12/8) 90年代の韓国美術から−等身大の物語 (東京国立近代美術館, 96/9/25-11/17) 東アジアの現代美術、それもインスタレーションを中心に集めたこれらの展覧会は、 火〜炭〜灰〜土っぽいところが渋く興味深い展覧会ではあった。けど、神話って? 物語って? "幸福幻想"展 (アジア交流センター, 95/2/25 -3/26) のけばけばしさの 中にあった辛辣さが欲しい。 第九位: Cindy Sherman展 (東京都現代美術館, 96/10/26-12/15) 見たことがあると思ってにしろ、見たいとは思わないことによってにしろ、看過し がちなだけで、実は街はこれ程に奇妙でグロテスクなのかもしれない。 第十位: ロトチェンコの実験室 (ワタリアム美術館, 95/12/1 - 96/5/6) チェコ・アヴァンギャルド・ブック・デザイン 1920s-'30s (Ginza Graphic Gallery, 96/10/4-26) 僕がこのようなデザインに惹かれるのは、単にまだ社会主義に夢があった頃があった ということ対するばくぜんとした感慨からではない。ワイマール共和国の社会民主 主義体制、ソヴィエト政府下の新経済政策といった、当時の大胆な社会実験から 生まれた/を生んだ活力を、そういったデザインから見出すことができるからだ。 次点: "鯨津 朝子 − 旋回する表象" (斎藤記念川口現代美術館, 96/10/22-12/22) は、 3階分の真っ白な空間に風のように黒い線が舞う、とても落ち着いて雰囲気の良い 空間だった。Gallery αMでの個展を見逃したのが悔やまれる。 "豊久 将三 (Shozo Toyohisa) - Light on Canvas" (Aki-Ex Gallery, 96/7/10-8/10, 11:30-19:00) の、複数の色付きの光源の光を重ねたライトアップ作品の影ができた ときの華やかさも忘れられない。 番外特選: 「ニュー・グロテスク」に関する"Meet the Curator: Robert Storr" (講演, 原美術館, 96/3/30) で、Sonic YouthがMike KellyやRaymond Pettiboneを ジャケットに使っていることを僕がStorrに示唆したとき、日本で相当するものを 尋ねられた。そのときに僕が挙げたのが、大竹 伸朗+ヤマタカEYE (Puzzle Punks) だった。そのときは、それから半年余り後に、"Paul McCarthy 展" (小山登美夫 ギャラリー, 96/11/23-12/22)、"Raymond Pettibon 展" (タカ・イシイ・ギャラリー, 96/11/26-12/28)、"Mike Kelly 展" (ワコウ・ワークス・オブ・アート, 96/11/22- 12/27)が、一挙に開催され、Destroy All MonstersとPuzzle Punksが競演することに なるとは、夢にも思わなかった。 97/1/1 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕