今年はdisk union新宿店の年越しセールで新年を迎えたTFJこと嶋田です。思えば、 僕が初めて年越しセールを体験したのは、高一だった'84年にCISCO渋谷店でだった。 以来'91年まで僕にとって年越しというのはレコード屋でするものだったのだが、 次第に年越しセールをする店が少なくなり、その習慣は跡絶えてしまっていた。 去年は久々に年越しセールへ行こうと思ったのだが、牡蠣に当たり死んでいたため、 実現できなかった。というわけで、フリージャズ〜現代音楽のCD・LPを20枚ばかり 買い込んで、とっても幸せな気分で迎えることのできた'97年だった。 そういえば、'95年末はいきつけのジャズ喫茶の年末最後の日にも行かれなかった ような気がする。'96年末は、閉店後に一噌 幸弘さんの能管教室でささやかに盛り 上がった。いやー、能管 (横笛の一種) って、音が出ないものだ。面白かったが。 初詣ならぬ初売りのレコード屋めぐりは、2日に渋谷に行った。しかし、今日も めぐったが、どうも食指が伸びる盤がない。不調だ。 もう一つの初詣は、画廊・美術館めぐり。というわけで、今年最初の日曜は、 寒空の下、自転車を駆って多摩川へ。ちょうど正午に到着。 _ _ _ Distanz und Naehe - Fotografische Arbeiten von B & H Becher und ihren Schueler ドイツ現代写真展「遠・近」− ベッヒャーの地平 川崎市市民ミュージアム 企画展示室, 川崎市中原区等々力1-2 (武蔵中原) 96/11/24-97/1/26, 9:30-16:30, 月休, 96/12/24,28-1/4,16休 - Bernd und Hilla Becher, Andreas Gursky, Candida Hoefer, Axel Huette, Simone Nieweg, Thomas Ruff, Joerg Sasse, Thomas Struth, Petra Wunderlich, Claus Goedicke, Heiner Schilling, Andrea Zeitler 日本画か何かじゃあるまいし「○○とその弟子たち」という企画はないだろう、と 行く前から思ってしまっていたが、そのいやな予感が的中してしまった企画だった。 というと、楽しめなかったみたいだが、作品の面白さに救われてそこそこ楽しめた。 B. & H. Becher の、巨大な建築物を厳格な構図で撮影した写真は、一連の写真を グリッド状に並べたもの − 所謂「タイポロジー (類型学)」 − が特に面白い。 対象が具体的なのにも関らず、その徹底した構図の統一感のおかげで、意外と 杉本 博司の「海景」シリーズ − こちらは、ほとんど抽象表現主義の絵画みたい だが − に近い感触を得た。以前に観たときは、そんなことはあまり意識しな かったのだが。そう、積分された写真だ。が、例えば、同じ構図の、小さな木製の 採掘塔と巨大な鉄骨製の採掘塔を撮影した写真を「微分」するとき、その射程が かなり社会的な所に踏み込んだものであることに気付かされて、はっとする。 それが、今の僕の好みに合っているような。B. & H. Becher だけの展覧会だったら どれだけよかったことか!! 他にも、面白い写真はあった。特に Claus Goedicke のプラスチック的な色彩と 質感を徹底した写真が、よかった。 で、B. & H. Becher と杉本 博司の作品を頭の中で比較しつつ、企画展示室を出て、 隣の写真ギャラリーへ入ったら…。 写真のタイポロジー − その発現と展開 川崎市市民ミュージアム 写真ギャラリー, 川崎市中原区等々力1-2 (武蔵中原) 96/10/30-97/2/11, 9:30-16:30, 月休, 96/12/24,28-1/4,16休 - 杉本 博司, 柴田 敏雄, 伊奈 英次, 畠山 直哉, Eugene Atget, August Sander, Walker Evans いきなり杉本 博司の作品があって驚いてしまった。「ジオラマ」シリーズ、それも 動物ものだったが。「ジオラマ」連作はあまり観たことがないので、観られるのは 嬉しいが、ドイツ現代写真展との連動企画なら、「劇場」「海景」シリーズの方が 良いような気がする。むしろ、柴田 敏雄の「日本典型」の方が Becher との違いも 興味深かった。 解説パンフレットを読んで知ったのだが、Edward Ruscha も、このようなタイポ ロジカルな写真作品を作っているよう。曖昧な風景に鮮明な言葉、という彼の作品が 好きなだけに、どんな写真作品なのか気になる。 _ _ _ と、観ていたら、原美術館の堀口さんと会ってしまった。美術展でよく遭遇する 方ではあるのだが、年始早々…。さらに、なぜか偶然に、原美術館のスタッフの 方2人と遭遇。ううむ。 ミュージアムのレストランで昼食を食べながら、1時間余り話したのだけれど。 ハラ・ミュージアム・アークの杉本 博司 展は、作品展示さながらの渋い入場者数 だったそう。牧場から流れてくる客のほとんどは、「同じ写真ばかり」と言いながら あっというまにギャラリーから出ていってしまったそう。うーん、観光客相手の 美術館のやる展覧会ぢゃなかった、ということか!? 渋くていい展覧会だったのに。 ミュージアムを出る14時半頃には、空は怪しい雲行き。予定を変更し家に向かった のだが、家の前で自転車を降りたとたん、空からぽつぽつ雨が落ちてきた。 というわけで、仕切り直して電車で渋谷に出て、徒労のレコード屋巡りの後、 いきつけのジャズ喫茶に初詣している。ドイツ現代写真展のフライヤを見ながら これを書いていたら、アルバイトの女の子に「これ観てきたんですか〜、良かった ですよねー。」と、声をかけられてしまった。うー。 97/1/5 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕