2月8日の夕方、世田谷美術館へ向かう途中、渋谷での乗換の隙を突いて旭屋書店に 飛び込んだら、意外な本が文庫の棚に並んでいて、驚いてしまった TFJ です。 思わず衝動買い。その後、新玉川線で偶然一緒になったT氏や、世田谷美術館で 会った camito-fan ML の人たちに、見せびらかしてしまったこの文庫本を紹介。 マックス・エルンスト 『百頭女』 (河出文庫, ISBN4-309-46147-6, '96/3/4) Max Ernst "La Femme 100 Tetes" ('29) - 巖谷 國士 = 訳 - pp.380, 980円 コラージュ、フロッタージュ (いわゆる擦り出し) といった手法を編み出した Dadaist 〜 Surrealist、Max Ernst (1891-1976) が、Surrealism 全盛の'29年に Andre Breton の緒言付きで出版されたコラージュ小説の翻訳がこの文庫本だ。 "La Femme 100 Tetes" は古い挿絵本の大衆版画を切り貼りしたコラージュ図版に フランス語でキャプションを付けた全9章147点のキャプション付き図版からなる本だ。 コラージュの図版はもちろん Surrealistic なものではあるのだが、19世紀の 挿絵版画的ともいえる暗さが無気味な感を増しつつも、妙に笑える出来だ。 貼り合わせの感がほとんどないのは、文庫本であるため図版の悪さもあるかも しれないが、素材がほぼ挿絵版画に限定されているからだろう。 キャプションはコラージュを説明するようでするでなし、タイトルのような短い ものから、セリフ風のものから、詩とまではいかないものの長いものまで。 ここは日本語に訳されているのだが、紙面に余裕があるのだから、フランス語の 原文との対訳にして欲しかった。La Femme 100 Tetes = La Femme Sans Tetes の ような言葉遊びがいろいろあると思われる。 百頭女という主たるモチーフを感じさせるものがあるものの、全体を通しての 物語のようなものはほとんどないので、一枚だけ見ても楽しめる。最後の図版が 最初のものと同じで「おわり、そして、つづき」というキャプションになっており、 起承転結を排した円環構造をもった話といえるかもしれない。 しかし、章の内で流れのようなものはある。奇蹟の大漁を描いた第6章あたりは 笑える話という感もある。無原罪の宿りを扱う第1章の、暗にエロティックで かつ失敗が笑えるものもいい。 これは、74年に豪華本として出たものの文庫化で、初版についていた別刷の 小冊子のエッセイが収録されている。これが、瀧口 修造、澁澤 龍彦、赤瀬川 原平、等豪華な顔ぶれ。あと、裏写りを避けるための配慮か、図版のあるページは 全て片面印刷になっている。おかけで、文庫の割に図版は見易い。 というわけで、幻想的というより笑える大人向けの絵本。手軽な文庫本なので、 電車の中でマンガを読む代わりに読んで、静かににやにやしよう。 この文庫本を書店の棚で見るまですっかり忘れていたが、かつて出ていた豪華本を 僕は図書館で見たことがある。巻末の解説によると、他のコラージュ小説 『慈善週間』、『カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢』も出ていたそう なので、そちらかもしれないが。これらのコラージュ小説や芸術論『絵画の彼岸』を 河出書房新社は出していたのだが、「これからもまたそれに似た動きが生まれそうな いきおいである。」(文庫版あとがき) ということは、文庫化が進んでしまったり するのだろうか。『百頭女』でも驚きなのに…。おそるべし。 _ _ _ 今日は午前中に家事を済ませると、自転車を駆り出した。雲行きはちょっと怪し かったが。途中「川俣 正 + PH Studio - Museum Construction」@ ヒルサイド・ ギャラリー を覗いたり、紀伊国屋書店 @ 新宿 Times Square に初めて自転車で 乗り付けてみたり (ここはちゃんと警備員さんが駐輪場を案内してくれた。)、 渋谷 Quattro Wave 閉店セールでCDを漁ったりしているうち、霙まじりの雨が降り だしてしまった。 というわけで、雨宿りに行きつけのジャズ喫茶 渋谷 Mary Jane に逃げ込んで、 これを書いている。初めてシナモンティをたのんでみたのだが、カフェオレボウルの ようなカップにシナモンの香りも甘いミルクティがたっぷり。あー、しあわせ。 と、霙まじりの雨の中を自転車で帰らなくてはならないという現実から逃避してみる。 と、今外を見たらもう雨はあがっている。時間ははやいが今日はもう帰途につこう。 と思ったら後藤 雅洋さん (第二のいきつけのジャズ喫茶 四谷いーぐる のマスター) が現れてしまった。うぅ、声をかけられてしまったが、どうしよう…。 97/2/11 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕