Man Ray の映画を観に都立現代美術館に行くつもりだったのだが、日曜昼過ぎの 電話で、すっかり忘れていたこれを思い出した。どちらも最終日で、どちらに すべきかかなり悩んだけれども、同時代性を尊重して、こちらへ。 The Cave - Video Installation NTT ICC Gallery D, 西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー4階 (初台,新宿), 無料 0120-144199, http://www.ntticc.or.jp/ 97/9/19-97/10/5, 10:30-,13:00-,15:30- (金18:30-) - Conceived and developed by Beryl Korot and Steve Reich. - Beryl Korot (multiple channel video), Steve Reich (music) 第1幕55分、第2幕40分、第3幕35分の計130分のヴィデオ・インスタレーション。 暗い部屋に、大きなビデオモニター5台 (と日本語字幕スクリーン) を並べて、 その前に席を並べるというもので、映画に近い感じの作品だった。これが映画 だとしても観るのに気合のいる長さではあるが、意外と楽しく観ることができた。 旧約聖書の創世記とコーランの中で語られるアブラハムとその妻サラ、召使 ハガル、ハガルに生ませた長男イシュマエル、サラの子イサクの挿話をテーマに イスラエル人12人 (西エルサレムとヘブロン, '89/5,6)、パレスチナ人17人 (東エルサレムとヘブロン, '89/6,'91/6)、アメリカ人27人 (ニューヨークと オースチン, '92/4,5) に語らせたドキュメンタリーが基になっており、 人物の写る画面も回答者のバストショットばかり。 こういった要素だけなら、退屈どころか疎外感まで感じた Muntadas のヴィデオ・ インスタレーション _Between the Frames: The Forum_ (ヨコハマポートサイド ギャラリー, '97/3) も同じようなものなのだ。テーマは美術をとりまく社会 システムで、それを美術関係者に語らせたドキュメンタリーが基になっていた からだ。 Muntadas の _Between the Frames: The Forum_ が退屈で Steve Reich の _The Cave_ が面白かった理由は、いくつか思いあたる。 まずは、あまり複雑なことは語らせず、鍵となりそうなフレーズのみを抜き出して いたこと。(これは重要。ヴィデオは読み物ではないのだ。) さらに、そういった 鍵となるフレーズが音楽的にも扱われていたこと。ループされ、楽器よって変奏 されて、Reich 風の音楽となっていく。コーランの詠唱なども効果的。 あと、旧約聖書を知らない人にもある程度話についていかれるよう説明も丁寧で、 旧約聖書やコーランが、英仏独の三ヶ国語の字幕付きで、繰り返し何度も リズミカルに Reich 風の音楽として朗読されるのだ。日本語字幕スクリーンは 美観を乱してはいたが、英語の読み聴きに慣れてない人には、あれが無いと お手上げだろう。やむをえないと思う。さらに、第1幕の最初の方は、テーマと なっている旧約聖書の挿話の粗筋がインタヴューを通して判るようになっていた。 (だから若干長い。) しかし、アブラハムが辿った道を示す地図まで出てきた のには笑った。 もちろん、こういった形式だけでなく、テーマの選択も良かったと思う。 一歩間違えばやたら宗教臭くなりかねないものだが、いろいろな人に語らせる ことによって脱臭し、むしろ、広く知られているある物語のようにも 扱われている。食い違う評価によって、登場人物の多面性が際立っている。 といっても、第1幕と第2幕は、物々しい警備のヘブロンの洞窟の様子の画面で 締めくくられるわけで、いやがおうでも、パレスチナでのユダヤ人とアラブ人の 対立を思い出されるものだったが。むしろ、この対立の宗教的な面については、 観ていて知るところもあった。(もちろん、対立は宗教的な面だけではない。) しかし、第3幕があることによって、この作品はもっと広がりのある作品になった と思う。ハガルへの「最初のシングル・マザー、神に声をかけられた最初の女性」、 「黒人(女性)として、とても他人事とは思えない」というコメントや、 イシュマエルへの「旧約聖書のジェイムス・ディーン」というコメントなどの 持つ射程は、もはやアメリカだけでも、所謂「聖典の民」だけでもない。 しかし、さらに、「聖典の民」ではない (確か Hopi 族の) ネイティヴ・ アメリカンの男性の「知らないよ」というコメントまで使う、気の配り方も なかなかすごいと思った。 マルチチャンネルにしたり、いろいろエフェクトかけたりしているとはいえ、 インタヴュー回答者のバストショットは芸が無いとは思ったけれども、 変に芝居かかったりするよりは、ましなのかもしれない。 と、眠くなるどころかあっというまの2時間10分だったし、久々に旧約聖書を 読み直そうという気にもなった。面白い作品だった。が、開始直後は満席で 椅子が追加された程だったのに、終わってみれば半分は空席。ううむ、やはり 退屈に感じた人の方が多かったか。 _ _ _ 人が語る様子のバストショットばかり使ったヴィデオ・インスタレーションと いえば、 Jean-Luc Vilmouth exhibition - Bar Seduire Spiral Garden, 港区南青山5-6-23 Spiral 1階 (表参道), 03-3498-1171, 無料 97/9/29-10/9,10/14-28, 11:00-20:00 はむしろ退屈。特定の相手ならまだしも一般相手にヴィデオを使って複雑な ことを語る=「誘惑する」のは難がある、といったところか。それとも、恋愛に 関することなら、それだけで、わざわざ聴くに値する、とでもいうのだろうか? 参加型、ということだろうか、撮影ブースもあったが。Muntadas の _Between the Frames: The Forum_ も、インタラクティヴィティを意識したかのような コンセプトではあったが、そもそも観る気もしないものに参加するか? ただ、アイスコーヒー、アイスティが400円、グラスワインが300円というのは あの界隈にあっては破格かもしれない。というわけで、ネコが写っている席で、 白ワインを傾けていた。別にネコが好きというわけではないけど、ぼーっと 観ながらひといきつくには、かわいく動くネコが一番うっとおしくなかったのだ。 97/10/5 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕