平日に行ったのに木場駅前の送迎バス乗り場は長蛇の列。人気あるんだなぁ。 La Collection du Centre Georges Pompidou ポンピドー・コレクション展 東京都現代美術館, 江東区三好4-1-1 (木場), 03-5245-4111 97/9/20-12/14 (月休;11/3,24開), 10:00-18:00 (金-21:00) とにかく作品がたくさんあるし、会場が混雑して暑いので、一度に丁寧に観ようと するのはかなり無理のある展示だ。一度だけ当日限りで再入場できるので、休みを 入れることを考えてみるべきだろう。 もちろん、全てが面白いわけでも、自分の趣味に合うわけでもないので、僕のお勧め に絞って紹介しよう。 一番は、Daniel Buren の 『かたち: 絵画』_Les Formes: Peinture_ ('77)。 この展覧会で展示されている絵のうち4枚の、かけてある絵と壁の間に Daniel Buren の 黒白の縞の布が貼ってあるもの。額縁ぎりぎりのものから、ちょっと小さくてほとんど 見えないものまで。貼ってある布を観ようと壁に顔をつけて絵を壁にそって横から 見たときに、今まで (少なくとも観客としては) 美術館の中でめったに見ることの 無い光景を見て、そして、どうして美術館では絵はかけられた壁から適度に離れて 正面から観ることになっているのだろう、ということに気付いてはっとする。 このはっと、する感覚が得られるだけでも、この作品は成功する。すると、 別に Daniel Buren の作品が後ろにかかっていない絵についても、後ろを覗き 込みたくなってしまう。係員の目を盗んでいろいろ観て歩いたのだけど (単なる怪しい客になってしまった…。) 額や掛け金の形とかそれが壁にどう かかっているとか、けっこういろいろあるもので、面白い。96年秋の水戸芸術館の Daniel Buren の展覧会でも、『全ての正方形の窓: 枠、枠の中、菱形』を探して 館内のあちこちを歩きまわっているうちに、普段ならめったに足を踏み込まない ようなところへ行ったり、目を向けないところに向けたりしたのだった。すると、 意外に面白い空間をみつけたり、裏の出光のガソリンスタンドが Buren の作品に 思わず見えたりし、それがとても面白かったのだけど。この _Les Formes: Peinture_ も同じようなノリにさせてくれて、うれしかった。さすが Buren。水戸芸術館で 観たときも、常設展示の中でやったほうが面白いんじゃないか、と思ったのだけど、 やはりそうだな、という感じがした。 Ilya Kabakov の『自分のアパートから空へ飛び去った男』_L'homme qui s'est envole dans l'espace dupuis son apartment_ ('81-'88) は超短編小説付きインスタ レーション。観るために長い列ができていたので、まず和訳されたそれを読んで 待った。で、ぼろい旧ソ連のアパートを擬した部屋を覗いて笑ってしまった。 ちょっと、とぼけた感じの笑だが。 Jean Dubuffet の『冬の庭』_Le Jardin d'Hiver_ ('68-'70) は今年の夏の伊勢丹 美術館での Dubuffet 展が面白かったので期待していたのだが、それを裏切らない 出来。軽い発泡スチロールかと思いきや意外と重くて硬い素材。その頃の Dubuffet ならでのぐにゃぐにゃぼこぼこした白黒の世界。庭というより洞窟だけれども。 Jean Tinguery の『地獄, 小さな始まり』_L'Enfer, Un Petit Debut_ ('84) は踊る ガラクタの山という感じで、ガチャガチャいう音も、動くベンチも、馬鹿らしくて いい。ただ、動くベンチは酷使されてくたびれているようで調子が悪そうだった けれども。 Chris Marker の『ザッピング・ゾーン (想像上のテレビのための提案 1990-1997)』 _Zapping Zone (Proposals for an imaginary television, 1990-1997) というのは、 (おそらく) Marker が90年代に作ったビデオ作品を十数台一度に上映するという ビデオインスタレーション。音が小さ目なのは仕方ないか。A. Tarkovsky (映画監督) や R. Matta, Kriste (美術作家) についてのドキュメンタリー、Berlin, Bosnia, 東京といった国や街のドキュメンタリー、字幕ばかりの集合論のビデオに混じって、 Johnny Marr (The Smith, The The)がギターを弾き、Bernard Summer (New Order) と Neil Tennant (Pet Shop Boys) が歌う映像が延々と流れていた。♪It's clear to see I love you more than you love me 〜と。これは Chris Marker が監督した Electronic, "Getting Away With It" (Factory, '92) のヴィデオ・クリップ だったのだが。凄い。 と、気に入った作品は2階〜3階に集中していた。観ていて、実は自分は絵が好きじゃ なかったのか、と思ってしまったくらい。観客も作品も多いので、なかなか集中 できないという難は感じたけれども。いや、平面でもそこそこ気にいったのが無い わけじゃないけど…。やはり、強くは印象に残っていない…。 2度目に観て歩いているときに、僕のとなりにいた年配の女性の客が、Buren の作品の 説明を見て「これはどうやってみるの?」って展示室にいる係の女性に聞いたので、 思わず代りに即席ギャラリートークしてしいました。こうやって壁に顔をつけて 観てもいいんですよ、って自分で実際やってみせて。写真集で観たことある作品や、 以前に表参道や水戸で観た作品の話を織り交ぜて。そうしたら、その女性は実際に 壁に顔をつけて、「あ、面白い!」と言って素直に喜んでくれました。そしたら、 周りの客もどんどんやりはじめてくれました。 あと、Ilya Kabakov を観るために並んだ列に、僕の後ろにいた年配の女性とその息子 (といっても僕より年上かな) らしき連れがいたのだが、その女性が「今までこんな 展覧会観たことない。動くのもあるし!!」っと、いたく Tinguery の作品が気に入って 興奮している一方、連れている男性が変な展覧会という感じで醒めている様子も 対照的だったのが、印象的でした。 けど、普段は絶対現代美術なんて観ないだろう年配の女性が喜んでいる姿とか見ると、 こういう混雑もまあ仕方ないかなー、なんて笑う気にもなれるのでした。 しかし、あのガレリア空間に展開している屋台の列は、ちょっと下品過ぎるのでは。 97/11/8 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕