12月に観た美術展の個展の落穂拾い。まずは、平日の17日の午後に逃避で回った 銀座から。 広瀬 智央: Lemon Project 03 ザ・ギンザ・アート・スペース, 銀座7-8-10 ザ・ギンザビルB1F -97/12/21 壁も床も黄色く彩色されたギャラリー空間に一万個のレモンが敷き詰めてある。 壁からもレモンの香料の匂いがし、部屋の片隅にはスクイーザが置かれて レモネードを作って飲めるようになってさえいる。その鮮やかな黄色とさわやかな 香り、師走の街のせわしなさをふと忘れることのできることができた。そして それは、ちょっとすっぱいのだけれども。 Tony Ousler 展 ギャラリー小柳, 銀座1-7-5 小柳ビル1F -97/12/20 ワタリアム美術館での "Poetics Project" 展の関連企画とも言えるものだが、 白くのっぺらぼうの人形の頭部に投影された人の顔のヴィデオは「アブジェクト」を 想起させるものがあったが、ギャラリー空間のきれいさに負けてしまっていた かもしれない。 _ _ _ あと、21日に秋葉原にPCの部品を買いにいったついでに行ったここ。 川仁俊恵展 お茶の水画廊・淡路町画廊, 神田淡路町2-11, tel.03-3251-2472   97/12/9-20 (日休), 11:30-19:00 けばけばしくいかがわしい秋葉原電気街から昌平橋を渡ると町並みが 変わるのだが、橋を渡ってすぐの路地裏に画廊があった。かつての書店の蔵を そのまま画廊にした空間で、蔦がからまった日本の蔵という外観といい、 ほとんど手を付けていない蔵の内装といい、それだけでもなかなか面白い ギャラリーだった。 作品は、藤棚を描いた絵画なのだが、ほとんど形態を失い淡い抽象的な寒色系の 色がまさにクールな―熱い抽象絵画にはない―雰囲気を出していた。3階にあった 上下反転可能な絵などは、その抽象性が生きていたと思うのだけれども、 作家さんと話をするまで、その作品がコンピュータ制作だということに気づか なかった。それは、その色使いやテクスチャが、WWW世代の若い作家が陥りがちな コンピュータ・グラフィックスのクリシェから外れていたとこもあるのだが。 それも、14インチのディスプレイを使い、メーカーなどが出力センターなどで 提供しているような高性能な印刷機を使わず市販で一番大きいプリンタを買って 家で使っている、という話を聞いて、意外に思ってしまった。 WWW site を自分で持つ若い世代の人が、えてして最新システムの機能デモの ようなデザインや作品にしてしまう一方で―つまり、結局はコンピュータに使われて いるわけだが―、自分の母親と同じくらいの世代の作家が、ある意味でローテク ながら見事にコンピュータを使いこなして作品を作っているのも驚きだったし、 それが、昔ながらの蔵に展示されているという意味でも、面白い展覧会だった。 97/12/31 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕