1997年に観た美術展・映画・ヴィデオなど10選。 第一位: Steve Reich & Beryl Korot, _The Cave - Video Installation_, NTT ICC Gallery D, 97/9/19-97/10/5, ヴィデオ・インスタレーション. さまざまな人の発言によって語られ、さらに音楽にされたアブラハムをめぐる話は、 宗教臭い教訓話というより、泥臭い家庭のメロドラマという感じで、かえってそれが この作品を魅力的なものにしていた。 第二位: Heiner Goebbels (directed), 『あるいは不幸なる上陸』, 彩の国さいたま芸術劇場, 97/11/30, ミュージック・シアター作品. 想像力をかきたてる最低限の舞台が、むしろ、劇的なものが生成する瞬間を明らかに してくれる舞台でもあった。 第三位: 若桑 みどり, 富山 太佳夫, 笠原 恵実子, 『揺れる女 / 揺らぐ男』, 栃木県立美術館, 97/8/30, シンポジウム. 若桑 みどり の気合の入ったトークも面白かったが、一見とっかかりのないピンク色の 子宮口の写真の新作 "Pink" についての 笠原 恵実子 のトークは、性の管理の問題に 至るより刺激的なものだった。 第四位: Hal Hartley (directed), 『フラート』, 恵比寿ガーデン・シネマ, 97/3, 映画. Hal Hartley (directed), 『ハル・ハートリー短編集』, ポリスター, 97/3, ヴィデオ. ほとんど同じ台詞の3つの短編からなる『フラート』は、映画によるタイポロジーと でもいう形式性によって、その「決断」に関する主題が際立った作品になっていた。 しかし、それに合わせて発売された短編集のヴィデオに収録された "Surviving Desire" ('91) のかわいらしいユーモアのほうが、それに勝っていたかもしれない。 第五位: Christian Moeller, _Virtual Cage an Aural Space_, 東長寺講堂 P3, 97/5/17-28, 美術展. 及び、Christian Moeller, 『サウンド・ガーデン − 浸透する空間』展, スパイラル・ガーデン, 97/5/8-28, 美術展. 仮想的な緑色の水を張ったかのようなP3の空間も美しかったが、スパイラル・ ガーデンの "Audio Grove" の独演も楽しかった。が、意味なく列車が通り過ぎる ヴィデオ・インスタレーション "Virtual Train" の笑いも捨てがたい。 第六位: 『Art-Link 上野-谷中 '97』, CASA, SCAI The Bathhouse, 上野の森美術館, 等, 97/10/10-11/3, 美術展. 4月の新宿タイムズ・スクェア, 6月の銀座・京橋, 11月の青山 Morphe と、街中 アートイヴェントは今年もいろいろあったけれども、谷中の街の雰囲気に勝る場所は 無かった。 第七位: Kjell Bjorgeengen, Per Inge Bjorlo, Per Barclay, 『ノルウェー現代美術の3人 − 場としての表現』, 原美術館, 97/11/1-98/1/18, 美術展. 北欧らしい、という言葉を思わず使いたくなってしまうほど、凛とした冷たさが 気持ちいインスタレーションだった。 第八位: Bernd & Hella Becher, et al, 『ドイツ現代写真展「遠・近」− ベッヒャーの地平』 川崎市市民ミュージアム, 96/11/24-97/1/26, 写真展. 及び、杉本 博司, 畠山 直哉, et al, 『時間 / 視線 / 記憶 − 90年代美術にみる写真表現』, 東京都現代美術館, 97/6/20-8/17, 写真展. タイポロジー的な写真作品に興味が行った一年だった。元祖 Bernd & Hella Becher の 作品も強力だったし、杉本 博司の渋さも圧倒的なのだが。それらと同じくらいに 畠山 直哉 の渋谷川を捕らえた連作のさりげない社会性も気になった。 第九位: 『不易流行 − 中国現代美術と身の周りへの眼差し』, キリンアートスペース原宿, 97/3/8-4/16, 美術展. アジアの現代美術の展覧会が立て続いた'97年前半だったが、『中国現代美術展』, ワタリアム美術館, 97/4/5-7/27 で観た チャン ホワン のパフォーマンスの馬鹿馬鹿 しさも悪くなかったし、中国・韓国・日本の作家を特集した『亜細亜散歩 二』, 資生堂ギャラリー, 97/1-4 でのいくつかの作品、特に、制服の塊など強力だった。 しかし、『不易流行』の圧倒的な紙の迷路に、単に社会や政治を扱っていること以上の 魅力を感じたもの確かだ。 第十位: やなぎ みわ, 村松画廊, 97/5/26-6/7, 美術展. 及び、やなぎ みわ, クリテリオム31, 97/11/1-11/23, 美術展. デパートの案内嬢の並ぶ写真に、性と経済の社会機構に関するちょっとした ファンタジーを観ることができた。 次点: Peter Greenaway, 『ピーター・グリーナウェイの枕草子』, 渋谷シネマライズ, 97/7-8, 映画 の凝ったマルチウィンドウ画面、東洋的イメージの積極的な誤用・混用、 フェティッシュなテーマなど、Greenaway ならではの世界ではあったが、あと一歩。 ザ・ギンザ・アート・スペースは、時々面白い美術インスタレーションをやって くれるのだが、明瞭な言葉とあいまいな映像の矛盾が魅力な Didier Courbot, 『語り手は声を失っていた』, 97/5/19-6/15、レモンを五感で感じる 広瀬 智央, _Lemon Project 03_, 97/12 が特によかった。 番外特選: 第21回野毛大道芸 で 雪竹 太郎 の『人間美術館』の「ゲルニカ」への参加体験は、 多くの場合においてハプニング/パフォーマンス系のアートより大道芸の方が 「ラディカルな並置の芸術」であるということを、改めて確信させてくれるもの だった。 98/1/1 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕