神戸ファッション美術館に62〜92年の Jean-Marie Straub & Daniele Huillet 監督映画作品が収蔵されたことを契機に、去年末に『ストローブ=ユイレ映画祭』 _Retrospective Straub-Huillet 1962-1992_ が神戸ファッション美術館と東京の アテネフランセ文化センターで開催された。その際にアテネフランセ文化センターで 上映されなかった三本の映画を併せて、98/3/5〜10 まで赤坂の草月ホールで続編が 開催されている。 神戸ファッション美術館の収蔵作品になったことによって、今後も時々上映会が 開催されるようになるのではないか、とは思うが (そういう意味では、上映権を 失いつつある Jean-Luc Godard の映画の方が今後劇場で観られなくなる可能性が 高いかもしれない。)、今まで名前しか知らなかった監督だし、こういう機会でも 無いとなかなか観に行かないので、何本かを観てきた。ちなみに、観たのは、 去年末に2本、今回の続編で3本、観た順に、 『アーノルト・シェーンベルクの《映画の一場面のための伴奏音楽》入門』 _Einleitung zu Arnold Schoenberg "Begleitmusik zu einr Lichtspielscene"_ - West Germany, 1972, b+w/color, 15min - Directed by Jean-Marie Straub and Daniele Huillet 『モーゼとアロン』_Moses And Aron_ - Austria/West Germany/France, 1974-75, color, 105min - Directed by Jean-Marie Straub and Daniele Huillet 『アン・ラシャシャン』_En Rachachant_ - France, 1982, b+w, 8min - Directed by Jean-Marie Straub and Daniele Huillet 『セザンヌ』_Cezanne_ - France, 1989, color/b+w, 51min - Directed by Jean-Marie Straub and Daniele Huillet 『雲から抵抗へ』_Dalla nube alla resistenza_ - Italia, 1978, color, 10min - Directed by Jean-Marie Straub and Daniele Huillet この5本から受けた全体的な印象としては、カットやカメラの動きが、全く無いわけ ではないけれど、ミニマル (最低限) な印象を受ける。そしてそのミニマルさが、 カットやカメラの動きが生む形式性を際立たせてくれる。Jean-Luc Godard と Alain Resnais が、編集が織り成すリズムが観客に働きかける方向性 ― Godard が 観客を議論に誘うとしたら、Resnais は模範的な議論を示す、といった感じだが ― において対極としたら、Straub & Huillet はその編集のリズムの無さにおいて、 Godard や Resnais の映画と対極を成すといった感もある。といっても、観ていて、 映画の形式以上に、「物事は自然なものではない! (Natural's not in it!)」と 思わせてくれるような力に欠くかくかな。Resnais の映画の凝った編集が、時として 観る者の意気を挫くような感覚に近い。Straub + Huillet のミニマルな編集は、 催眠的なときもある。 見た中で最も面白く観られたのは、『雲から抵抗へ』だろうか。Cesare Pavese の 二本の小説をネタにしているようだが、前半の神話の世界と、後半の二次大戦直後の イタリアの対比 (というかそうなりきれないズレ) が面白い。 去年末に観た『モーゼとアロン』は、これを観て逆に、その2が月前に観た Steve Reich & Beryl Corot, _The Cave_ って実にオペラだったのだなぁ、と、 実感できたという意味で、興味深かったが。あと、『アーノルト・シェーンベルクの 《映画の一場面のための伴奏音楽》入門』と併映だったこともあるのか、Straub & Huillet って Schoenberg が好きなのかなぁ、とかふと思ってしまった。 『アン・ラシャシャン』は、Margrite Duras の童話を元にしたということで、 少々期待していたのだけど、8分は短すぎて、Straub & Huillet のカットやカメラの 動きの少なさのような特徴が生きていないような気がした。 『アンナ・マグダレーナ・バッハの日記』_Chronik der Anna Magdalena Bach_, '67 のような代表作を見逃しているのは、ちょっと悔しいのだが。あと、Straub & Huillet ならこれもお勧めというものがあったら、今後の参考にしたいので、教えて欲しい。 98/3/7 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕