クリテリオム35 ― 向山 喜章: Cool Touch 水戸芸術館現代美術ギャラリー第9室, http://www.arttowermito.or.jp/ 98/4/11-6/7 (月休,5/4開), 9:30-18:30 作家の名前に覚えが無かったのだけれど、作品を観て、去年の『鍵のかかった部屋』 展 @ ギャラリー美遊 や、ギャラリー360°で売られているマルチプル作品として、 何回か作品を観ていることに気づいた。 着色したワックスを固めて作った作品で、10cm厚はあろう巨大な白いワックスの板の 中に淡い色のストライプや枠状の形が見えるというもの。形状や色使いからして、 ミニマルアートにも近い印象もあるが。その作品の魅力は、むしろ、ペインティング とは異なる、淡い色も含めたワックスの透明感というか質感だろう。単純な形状も、 むしろ、ワックスのメディアの特質を際立たせることになっている。 アーティスト・トークでも、コンセプト的なものよりも、むしろ、ワックス職人芸 とでもいうような制作の話や、温度や作成後の時間経過によって発色や大きさが 変化するというワックス作品の特徴の話の方が、遥かに面白かったと思う。 コンセプト云々よりも、ワックス自体のメディアとしての面白さ (蝋人形のように ワックスによる造形の面白さではない) をぱっと提示して見せてくれる、そういう 作品もいいものだなぁ、と思ってしまった。 あと、彼のプロジェクト Nut Company の話もあった。これは、彼のマルチプル作品や その周辺商品用のブランド (ギャラリー360°で売られているのを、僕も見たことが ある。) で、アパレルのコードを用いた美術作品の流通の試みという。写真作品や ある種の平面作品やCG作品であれば、書籍やCD-ROM、商品に付随するグラフィック デザインとして、大量複製品のように流通させるという試みもあるわけだけれども、 彼のワックス作品=蝋細工のような大量複製が困難な作品に関しては、ある意味で アパレル (特に量産されないオートクチュールのようなもの) や宝飾品をアナロジー として持ってくるというのは、妥当なもののようにも思える。それがうまくいくかは 微妙なところがあるけれども。 アーティスト・トークの後に、作品をイメージしたカクテルを出すパーティ『Cool Grass』があった。このようなカクテル・パーティは、彼の展覧会の際はいつも やっているそう。カクテルは、作品のイメージにもあっていたし、アルコール入りの ものもノン・アルコールのものも美味しかったこともあり、なかなかいい試みだな、 と思ってしまった。原美術館の Cafe d'Art にはイメージ・ケーキというのがある けれども、こういう作家の企画でではなく、美術館のカフェでこういう試みをもっと 積極的にやっていいのではないかな、とも思う。 98/5/3 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕