シンポジウム『女性写真家のまなざし―1945〜1997』 東京都写真美術館ホール (恵比寿), http://www.tokyo-photo-museum.or.jp/ 98/6/6, 14:00-17:00 - 飯沢 耕太郎 (司会), 若桑 みどり, 林 洋子, 笠原 美智子 東京写真月間'98に関連する企画展『女性写真家のまなざし―1945〜1997』 (98/5/30-6/14) にあわせて行われた同名のシンポジウム。若桑 みどり が 出るということで、聴きに行ってきた。 自己紹介の後、司会の 飯沢 耕太郎 のコメント付きで作品のスライド上映が あった。展示を観ていなかったので、これには助かった。僕が普段に画廊巡り 等で観ている写真は、比較的最近のピクチャリズムというか現代美術の文脈の 作品ばかりということもあって、ドキュメンタリー的なフォトジャーナリズムの 写真のようなあまり見慣れない作品を解説付きで観られるのはありがたかった かもしれない。 その後に、三人のパネリストが順に話をしていったのだが。テンションの高さ といい、話の切れ味といい、やはり 若桑 みどり が格段上手だった。言っている ことすべてに同意するわけじゃないけど、それほどめちゃくちゃなことを言って いるわけではないし、勇み足を恐れずに断言していく話し振りぶりは、聴いて いて刺激的。いろいろ考えるきっかけになる。それだけでも、話を聴きに行く 価値はあるかもしれない。 若桑 みどりは、まず、「女性」「まなざし」と銘打っていながら、選定委員会は 一人を除いて男性であり、その合議制の中で戦後の写真史の中で"エスタブリッシュ" された写真家が選ばれている、という問題点を指摘した。そういう意味では、 男性に認められる何かがあった、もしくは、男性から見た「女性のまなざし」の 展覧会だと。このことを直接うけるわけではないが、この展覧会に取り上げられて いない、90年代の作家 (『カレイドスコープ―90年代の女性写真家たち』展 @ 新宿パークタワー (98/6/16-28) に出展している) の方が破壊的な眼差しがあると。 この問題点や、生物学的に女性だからといって写真に女性的なものがあるのか、 という問題点を前提した上で、この展覧会に出展されている写真について、 テーマとスタイルについて、ざっと分析してみせた。まず、テーマについては、 基本的に私的生活圏、匿名、集団という特徴がありマージナリズムが際立って いること。このテーマの選び方を、男性によって女性の眼差しとされるもの、 男性の領域を犯さないものとして存在してもいいもの、と、関係付けてみせた のだけれども。中には、はかない影のような女性像、オリエンタリズム、と いった、女性で東洋人なのに白人男性の目で撮影している例もあると挙げながら。 しかし、むしろ、興味深かったのは、テーマよりスタイルの話で、展覧会に 出展されている写真には、ドキュメンタリでもないのに、斜め傾いた視線、 極端な視角、断片性、ブレといった特徴があり、それには、偶然性、カジュアリティ、 視線による所有の拒否、とといった意味があることだった。これは、がっちり 安定した画面構成の「世界は私が見るとおりだ」的写真との対比の話なのだが。 そういう話を聴いていて、一番の収穫だったのは、今まで何回か展覧会で作品を 観ていながらいまいちピンと来なかった 石内 都 や 楢橋 朝子 の写真の良さが 判ったような気がしたことだろうか。 他のパネラーのコメントで興味深かった点を挙げると。林 洋子 は、同じような モチーフをを繰り返し撮影する写真家でも、杉本 博司 と違い 潮田 登久子 は 家庭の冷蔵庫を撮り続けているように、モチーフに大きな違いがあることを 指摘していた。あと、笠原 美智子 が、最近のヒロミックスに象徴されるような 「女の子写真家」のスナップ写真風の写真に関連して、「表現している内容の 関係はそのままに、新しい作風を用いている。」ということを言っていたのだが、 そのときに、ふと、W. ベンヤミン『複製技術時代の芸術』に出てくる以下の フレーズを思い出した。 新しく生まれたこのプロレタリア大衆は、現在の所有関係の廃絶をめざして いるが、ファシズムは、所有関係には手を触れずに、大衆を組織しようと している。そのさいファシズムは、大衆に (権利を、ではけっしてなくて) 表現の機会を与えることを、好都合とみなす。(W.ベンヤミン『ボードレール 他五編』(岩波文庫) より) これは、ファシズムにおいて、プロレタリアとブルジョワの間で起きたことを 述べたものなのだが…。これを、男女の間で起きていることと、という観点で 見るとどうなるのか、とか考えると、このシンポジウムの最後で話題になった 荒木 経惟 の作品や Girlism にも関係してくるようで、いろいろ考えさせられる ものがある。 と、いろいろ刺激的で考えさせられるシンポジウムだった。 98/6/7 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕