『建築の20世紀―終わりから始まりへ』 東京都現代美術館, http://www.via.or.jp/~imnet/mot/ 98/7/10-9/6 (月休), 10:00-18:00 (金10:00-21:00) 東京都現代美術館の企画展示室をフルに使った、大規模な20世紀の建築の展覧会。 展覧会の企画構成は Museum of Contemporary Art, Los Angels (MOCA) で、 東京都現代美術館 (MOT) を皮切りに世界中を巡回するものという。 個人的に最も興味を惹いたのは、展示の最初にあたる3階、20世紀初頭の展示。 特に、ロシア・アヴァンギャルドのコーナーでは、1925年のパリのアール・デコ展に 出展された Alexander Rodchenko の『_Workers' Club_ 労働者クラブ』が再現 されていた。モダンな図書閲覧コーナー、という感じ、思わすわくわくしてしまう。 ロシア・アヴァンギャルドの建築といえば _Paris-Moscou_ (Centre George Pompidou) のカタログで図版を見ているくらいなので大きな図面や模型で見るとまた新鮮だ。 ただ、Rodchenko のにしてもそうだが、Konstantin Melnikov の『ルサコフ労働者 クラブ _Club Rusakov_』('30) にしても、いわゆる労働者クラブに焦点を当てた 展示だったように感じた。これは、Walt Disney, _EPCOT Center_ や『福岡キャナル シティ』などのエンターテイメント・商業施設を扱ったコーナーに繋がるのかも しれないが、展覧会全体として消費の場としての建築に偏っていたのかもしれない。 Vladimir Tatlin の『第三インターナショナル記念塔 _Monument to the Third International_』はもちろん外せないし、MIT の "The Unbuild" プロジェクトに よって作られたCG合成画像も見ることができるが、それを観るとちょっと半端な 気がしたので、El Lissotzky 『レーニン演説台 _Lenin's Tribune_』の実寸模型 (作れるのか!?) とかやってくれた方が面白かったかもしれない。 「家事の合理化」コーナーでは、Grete Lihotzky 『フランクフルト・キッチン _Die Frankfurter Kueche_』の実物が展示されているのだが、棚の一部があるだけで 台所部屋全体が復元されていなかったのは残念。しかし、その一部から想像した だけでも、写真や映像で想像していたよりもさらに狭い台所だということがわかって、 ちょっと驚いてしまった。『効果的なハウスキーピング技術の訓練』という、 当時のフランクフルトで作られたヴィデオが上映されていたが、_Die Frankfurter Kueche_ の映画は上映できなかったのだろうか。 建築やアーバニズムにとってモータリゼーションは無視できないのかもしれないし、 フォード主義というくらいで近代を語るに重要な鍵だというのはわかるのだけど、 (ちなみに、この展覧会のパンフレットの巻頭挨拶文はフォードの会長が書いている。) アーバニズムに関する展示はそれを重視し過ぎかな、と思うところもあった。 そんな中では、個人的には、イタリア未来派の建築家が発電所を描いているのが 興味深かった。そう、August Sander の撮影した高速道路橋の写真が展示されて いたのだが、道に平行して走っている送電線が、高速道路同様、印象に残る 写真作品だった。仕事柄、発電所や中央給電司令所など設備を見学する機会が それなりにあるのだが、電力システムほど大規模な近代設備は無いと思っている。 ただ、自動車や道路網と違い、一般の人が目にして意識するものではないものだが。 発電所でなくてもいいけど、工場のような建築物の扱いが地味だったように思う。 そう、消費の場としての建築というのが、この展覧会の一つの方向性だったと思うし、 そういう意味でも、博覧会のパビリオンに関する展示も多かったのだが。フォード 主義といえば、30年のニューヨーク万博でのフォード館のマーキュリー像は、 そのシンボルとしてぴったりいい感じを出していたと思う。かなりウケてしまった。 August Sander の高速道路橋の写真だけでなく、建築写真というより Axel Huette のような Becher school の現代美術の文脈での写真家が撮影した建築の写真が さりげなく展示されていて、それを見つけるのも展示を観る楽しみだった。 そんな中では Catherine Opie の高速道路写真の連作 ('95) は、横長の画面に うねる高架橋が抽象的に舞う白黒写真で、かなりかっこいいものだった。ギャラリー 小柳 で展覧会のあった 杉本 博司 のピンボケ建築写真は、パンフレットには 使われていたが、展示の中に紛れているものは発見できなかった。 しかし、展示が多すぎて、後半、緊張が切れてしまった感じもあった。ギャラリー 間で観たばかりの Renzo Piano の展示をここで観ても、ギャラリー間で観たような 興奮は全く得られなかったし。戦後に入ってからの展示は、時代を追って辿るの ではなく、建築物の目的やコンセプトによって分けられていていたのだが、逆に ちょっと散漫になってしまったかなぁ、という気もした。ほとんど最後の Mies van der Rohe の迷路に基づいたモットーの展示に到ったときには、既に、なんだ これ、状態…。しかし、モットーをこういうふうに展示されても、仕方ないような 気もする。 図面や写真などの資料、模型が中心の展示で、大規模な割には地味で、素人には とっつきづらいのではないかとも思った。ある程度の建築の知識がないと、頭から だらだらと観て行くうちに途中で力尽きてしまいそうな展示だと思った。近代以降の 建築を総覧しようとすると仕方ないのかもしれないが、一度に観るには量が多すぎる かもしれない。 Le Corbusier, _Villa Savoye_ の実寸模型の企画が没になったのはとても残念 なのだが (1/50の模型の展示はあったが)、とっつきやすさ、という意味では、 本格的な体験型の実寸模型展示が一つくらいあってもよかったようにも思う。 MIT の『未構築 _The Unbuild_』プロジェクトによるCG合成画像の上映は目を 惹くのだが。僕にとっては画面の振りが速過ぎて、観ていて酔いかけてしまった。 さて、この展覧会のパンフレットは、 『建築の20世紀―終わりから始まりへ』 (デルファイ研究所, ISBN4-924744-20-4) という5,000円余りの大きな本になっている。展覧会に展示されている資料の写真 などを収録したものというより、独立した本のようになっている。買ってしまったが、 これを書きながら展示で見た資料をもう一度参照しようとしたら載っていなかったり、 という不満を感じるところはあるが。資料集というより論文集的な編集をされている。 20世紀現代建築を総覧する本といえば、僕は Peter Goessel & Gabriele Leuthaeuser, _Architecture in the Twentieth Century_ (Taschen, ISBN3-8228-9056-1) を 持っているのだが、こちらは編年体でまとめてあり、単に図版や写真を当たる場合、 こちらの方が参照しやすいように思う。ただ、この本は、日本の建築がほとんど 全く扱われていないし、やはりロシア・アヴァンギャルドにも弱い、など、不満も あるのだが。 98/8/18 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕