去る8月の半ば頃、茶室で茶懐石を体験した。茶道の作法は抜きに美味しいところ だけ体験した、という面もあるのだが、その心地よい空間時間を体験しながらも、 今の食文化 ― その典型はファーストフード・ショップやファミリー・レストランに 見ることができるだろう ― への近代の理念の反映され方について、改めて考えさせ られてしまった。そんなことを考えているうちに、いつのまにか、こんなイベント に巻き込まれてしまっていた。 May Cafe in □ ― "You are what you eat" Command N/□, 台東区上野1-2-3犬塚ビル1F 98/9/4-19(土日のみ), 17:00-21:00; 98/9/15, 12:00-17:00 (you are what you give) - 海田 麻衣子, 坂口 千秋; 関井 雅博 (写真), Device Girls (映像), 鈴木 香里 (食器デザイン) 去年の夏頃から東京近辺で半ばゲリラ的にベトナム風移動カフェを展開している May Cafe (正確には"May"の"a"の上に"^"。モイカフェ。) の、湯島のアート・ スペース Command N/□ を使ってのイベント。さっそく、オープニングへ行ってきた。 初めて May Cafe を見たのは97年の夏に表参道のミズマ・アート・ギャラリーへ ベトナム現代美術展を見に行ったときで、そのときは「展覧会がベトナムものなので その関連でギャラリー関係者がやっているんだろう」くらいにしか思っていなかった。 もう一度、その秋に ART-LINK で谷中へ行ったとき、SCAI The Bathhaus の小さな オープンテラスでやっているのを体験したこともあるのだが、こちらは、小春日和の 晩秋の谷中という絶好の環境もあって、とても楽しんだものだった。 今回の Command N/□ の1Fという会場は、低層ビル街の路地に面したところで、 壁が白塗りの小さなガレージという感じ。路地を歩いていて一見すると、ビルに 入っている事務所の人たちがガレージで宴会をやっている、という雰囲気もあった。 しかし、中に入ってしまうと、外見と異なり、狭いながらも居心地のいい空間に なっていたが。 イベントを体験していて、現在の食文化に対する再考を促されたというより、むしろ、 自分を取り巻く文化の階層構造について考えさせられてしまった。ギャラリー状の 空間にビデオが投影されていたり、写真らしきものが壁に展示されていたりする わけで、そういう場における主従関係 (通常なら、ビデオや写真の作品の展示が 主であり、モイカフェのようなことはそれ従属する関連イベントとされる。) の 逆転・解消という意味で。そして、そのような主従関係を暗黙の前提として、例えば、 立派な美術館に簡易食堂のようなカフェが当然のように作られていくわけだが。 そして、いきつけのジャズ喫茶のマスターが、常連のミュージシャンや美術作家の 話をしていたときに「彼らは偉くなっていくことができるけど、マスターなんて いくら頑張ってもただのマスターだもんなぁ」のようなことをぱつりと言ったことを、 ふと思い出してしまった。 さて、May Cafe も過去に何回か参加したこともあるイベント flow が、Moy Cafe in □ のオープニングの翌日に駒場寮中寮屋上で開かれると知って、行ってみた。 flow #6.3 駒場寮中寮屋上, 東京大学駒場キャンパス内 98/9/5, 17:00-21:00 都区内とは思えないほど深い緑に包まれ暗く沈んだ東京大学駒場キャンパスの中、 良い感じに荒んだ駒場寮の屋上は、その暗さと空の広さが気持ち良かった。 丁度日暮れた頃に着いて、写真を撮ったり、軽く踊ったり、座っておしゃべり したりするうちに、あっというまに21時になってしまった。 DJセットとPA、ビデオプロジェクタ、ファニチャ類を持ち込んで空間を演出して いたけれども、はたして、その演出が良かったのか、駒場寮の屋上という場所が 良かったのか、考えさせられてしまった。駒場寮を使ったギャラリーの展示にも 同じようなことを感じるのだが、駒場寮の屋上でやれば、なにをやってもそこそこ 格好が付いてしまう、と思うからだ。(谷中での May Cafe にも同じことが言えると 思うが。) こんなイベントをやっていないときに、駒場寮の屋上で静かに星空や 月を見上げていたほうがずっと素敵なんじゃないかって、明りに赤く染まった 雲に隠れがちな月を見上げながら、考えてしまった。 そして、2年前に、晴れた満月の夜に原宿同潤会アパートの屋上に登りに行った ことを、ふと思い出してしまった。そのときは、加藤 力 がそこでインスタ レーションをしていたのだけれども。空間それだけでも素敵だったけれども、 それとは別に、ミニマルながら異物感を強く感じさせる赤いバルーンは、自分が その場に持ち込んでしまっているものを強く意識させてくれて、良かったと 思っている。ミニマルな演出の方があのような場には生きるのかもしれない…。 98/9/6 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕