表参道の Comme des Garcons のブティックでは、店の一角を使って現代美術の インスタレーションをよく行っている。ここ2〜3年の間で印象に残っているもの だけでも、Daniel Buren, Jesus Rafael Soto, Jean-Pierre Raynaud といった 作家が挙げられる。 今年に入っても面白い作品が展示されてきているので、既に終わってしまったが 初夏に展示していたものと、現在の展示を紹介したい。 Felix Gonzalez-Torres Comme des Garcons, 南青山5-2-1 (表参道), tel.03-3406-3951 98/5/10-98/6末頃 96年に死去した Cuba 出身 NY 在住だった作家。大量生産品を用いた「反芸術」的な 作品で知られたのだが、ここでのインスタレーションは、『しなやかな共生』展 @ 水戸芸術館 (97/4-6) の作品と同様の、銀の包装紙に包まれたキャンデーを用いた 展示であった。道に面したショーウィンドウの角の足元にキャンディが30cmばかりの 高さに積み上げてあったのだが。 Gonzalez-Torres の作品のコンセプトからすると、通りすがりの人にそのキャンディを 拾って食べてもらう、というものなのだろう。それ以来、表参道に行くと、僕は、 Comme des Garcons へ行って、キャンディの減り具合を確かめては、一つ摘まんでは 口に入れていた。しかし、補充をしているのではないか、と思うほど、キャンディは 減ることはなかった。実際、しばらくショーウィンドウの外から様子を眺めていた ことがあったのだが、キャンディを摘まむ人をみかけることは無かった。ちゃんと 作品だと認識されていなかったのかもしれないし、薄々作品だと気づいていても、 床に置かれたキャンディを摘まんで口に入れることなど思いも寄らなかったのかも しれない。そして、減らないキャンディにこそ、今のここの社会が反映されている のかもしれない。 そして、キャンディが減らないなぁ、と思いつつ7月に入ると、いつのまにか展示が 変わっていた。 Steven Pippin, _Endless Entrance_ Comme des Garcons, 南青山5-2-1 (表参道), tel.03-3406-3951 98/7/10-? いつも展示を行っている側のガラスの自動スライド・ドアの内側に、さらに、 8枚のガラスの自動スライド・ドアが連続して設置されていた。それが、この Steven Pippin, _Endless Entrance_ だ。 コンセプト・シートにある「自動のガラスの引き戸は1950年代に内と外の境界線を とりはらう方法の一つとして導入された。」とあるよう、Comme des Garcons の ブティックにしても、ガラスの自動ドアは、大きなショーウィンドウと一体となって、 通りとブティックの空間を連続させている。衝立て程度の間仕切りしかない ブティック内の空間もあわせ、まるでそこに建物が無いかのようでもある。 しかし、_Endless Entrance_ の8枚の連続するガラスの自動ドアは、たとえガラスで 透明で中の様子が見え、自動に開閉することによって容易に出入りできるとしても、 内部と外部の不連続性が厳然としてあるということを明らかにしている。1枚なら すっと中に入れるようなドアでも、それが8枚続くとき、それは壁となって出入り する者の前に立ちはだかる。 実際にそこを通ってみれば、通過するのにかかる時間にいらいらさせられるかも しれない。初めてこの展示を観たとき、僕は、しばらくショーウィンドウの外から 人の流れを観察していた。しかし、僕が見ていた間、客はみなその自動ドアを避けて、 その自動ドアを通る人は一人もいなかった。 98/9/27 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕