1998年は英国祭 '98 ということで、今までなかなか日本で紹介されなかったUKの 現代美術作家の展覧会が頻繁に行われている。この関連の展覧会を2つ紹介。 _ _ _ 『サイモン・パタソン ― 言葉とイメージの遊戯室』 Simon Patterson, _Playroom of Words and Images_ 三鷹市芸術文化センターアートスタジオ, 三鷹市上連雀6-12-14 (三鷹), 0422-47-5122 98/10/3-25 (月休), 11:00-19:00 ロンドンの地下鉄の路線図や、元素の周期表、太陽系の惑星軌道図、といった広く 使われている図を元に作られた平面作品を作る作家。遠目に見れば、そのもの、と いう感じなのだけれども、路線図であれば、駅名や路線名が人名と人物カテゴリ名に、 周期表であれば、元素名がチーズの名前、もしくは星や星座の名前に、惑星軌道図で あれば惑星名が様々な「あの世」の呼称に置き換えられている。 題名が示すよう、言葉の遊戯も行っているのだとしても、僕にはそれについては ピンとくるところはなかった。これは、僕が英語を母語にしていないからかもしれ ないけれども。来日してのワークショップで作成した、東京の地下鉄路線図を使った 作品でもピンとこないので、そんなものかもしれない。 むしろ、路線図のような説明のための図、周期表や惑星軌道図のような科学的記述の ための図というものが、極めてモダンなデザインであることに改めて気づかされて、 そちらの方が興味深かった。ちょうど、東京都交通局が、地下鉄各駅の出口乗換口が 列車の何両目にあるかを示した、地下鉄乗り換えマップというものを、都営地下鉄の 駅で配布している。その桝目を路線のアイデンティティ・カラーでまだらに埋めた 図が妙に奇麗で、かつ、「日比谷線、東西線、千代田線は出口がホームの両端に 集中している」のようなことが一目で読み取れるのが、とっても面白かったのを、 Patterson の作品を思い出してしまった。 文字だけの肖像画 _Name Painting_ シリーズなどは、ミニマル肖像画といえばそう なのかもしれないし、モダンなグラフィック・デザインのポスターのパロディとも いえるが、"Marx Engels Lenin" や "Hitler Mussolini Stalin" じゃ直球過ぎで、 もう、少し異化する何かが欲しい気もしないでもない。この組み合わせって何?、と 思わせるような。 「国連総会」という題の巨大なタイプライターを擬した立体インスタレーション 作品もあったのだけれど、平面作品に比べていまいち説得力に欠けるような気がする。 タイプライターのキーやその配列などのプロダクト・デザインも、モダンなもの なのだけれども、グラフィック・デザインほど、引用したときに、そのモダンさが 表出しないからかもしれない。 _ _ _ Gillian Wearing ギャラリー小柳, 東京都中央区銀座1-7-5, tel.03-3561-1896 1998/10/10-31 Georgina Starr, Tracey Emin と三人でお互いを演じ合う様子を収めた共作ビデオ 作品 _English Rose_ や、思っていることを書かせた紙を持たせて撮ったポート レイト写真の連作 _Signs that say what you want them to say and not signs that say what someone else wants you to say_ ('92-93)、公園で女性に瓶の口を 吹かせるビデオを繋げて Coca-Cola のテーマソングを聴かせる _I'd like to teach the world to sing_ ('95) など、辛辣やユーモアも楽しい作品を作ってくれる UKの女性作家 Gillian Wearing の展覧会。 といっても、画廊での展覧会ということで、5分のビデオ作品 "Cover / 2 into 1" のみ。母娘の喧嘩と仲直りの様子を逆回転で見せるビデオ作品 "Sasha and Mam" ('96) のバリエーションとも言えるもので、母親と双子の息子のお互いに対するコメントを 入れ替えてお互いが自分で自分に対するコメントをしているように編集したビデオ 作品。ちょっと皮肉っぽいところもあるかな、という程度の佳作だろうか。 奥に、_Signs that say what you want them to say and not signs that say what someone else wants you to say_ の写真が2作と、写真とそれを説明するかのような 手紙を組み合わせた作品が2組、展示されていた。後者は2組がそれぞれ食い違うような 内容だったので、実はもっとたくさんある連作なのかな、という気もしたが、2組 だけではいまいち掴みかねる気がした。 98/10/17 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕