Merce Cunningham Dance Company 日本公演 (1998年) 新宿文化センター (新宿) 98/10/24, 14:00- contemporary dance の代表的な舞踊団、Merce Cunningham Dance Company の 日本公演が、この10月末から11月頭にかけて行われている。巡回個所も東京、新潟、 京都、島根、とかなり大掛かりなものだ。そのうちの一回、24日の東京での公演を 観に行ってきた。会場はほぼ満席、Jim O'Rourke の演奏や Comme des Garcons の 衣装を目当てに観に来ていた人もいたとは思うが。24日は演目は3つ。 席は前から2列目のほぼ中央。オーケストラ・ピットの中での演奏の様子も良く 見える席で、その演奏の様子もかなり楽しめた。その一方で、舞台全体を見渡す には前過ぎで、舞台を広く使われると全体を見渡せないようにも思った。そのため、 どうしても一部のダンサーの動きを注視しがちだったように思う。 _Windows_ (1995) Choreography: Merce Cunningham. Music: Emaniel Dimas de Melo Pimenta, "Microcosmos". Decor: John Cage, "Global Village 1-36" (1989). Costumes: Suzanne Gallo. Lighting: Aaron Copp. Musicians: Stuart Dempster, Takehisa Kosugi, Jim O'Rourke. まずは、ミニマルなダンス _Windows_。モダン・ダンスがバレエの近代化としたら、 Merce Cunningham のダンスはその前衛というか、具象から抽象へという感なのだが。 その結果としていきつくミニマルさ、という感だろうか。という意味では、どうして こうなるのか判るような気がするのだが。色数や形の変化に乏しい John Cage の エッチングを拡大した背景幕が掛けられただけの背景。体にピッタリで装飾の無い 衣装は、体の動きは際立たせていたが、体のラインの男女差も捨象させてしまう ような感があった。衣装に若干の違いがあるものの、踊り始めて暫くはダンサーの 男女の区別も付け難かった。次第に区別が付くようになったのは、その特徴を把握 したからだけではなく、むしろ、後半になってダンサーの動きに男女の区別が出て きたからのようにも思う。7組の男女、という形で終わるわけだし。鐘の音が鳴り 響くだけのような Pimenta の電子音響な音楽は、3人がそれぞれ何をしているのか、 結局よくわからなかった。 _Pond Way_ (1998) Choreography: Merce Cunningham. Music: Brian Eno, "New Ikebukuro (For 3 CD Players)". Decor: Roy Lichtenstein, "Landscape with Boat" (1996). Costumes: Suzanne Gallo. Lighting: David Covey. 続く _Pond Way_ は、_Windows_ に比べぐっと具体的。といっても、Cunningham の ダンスはそうなのだが、音楽に合わせて踊る/踊りに合わせて演奏するのではなく、 ここでも、音楽は勝手に鳴っているだけだし。背景も Roy Lichtenstein にしては 抽象的な部分が多い版画を拡大した背景幕がかけられているだけ。ゆったりした 袖裾様のものが付いた衣装が、ミニマルから脱する鍵だったように思うのだが、 それが逆にいまいちに感じられてしまった。一人の女性ダンサーが舞台前方を横切る のを一歩進む度に様々な男性ダンサーが入れ替りサポートする、みたいなところが 妙におかしくて印象に残っているが。 _Scenario_ (1997) Choreography: Merce Cunningham. Music: Takehisa Kosugi, "Wave Code A-Z". Costumes, Space & Lighting Concept: Rei Kawakubo. Musician: Takehisa Kosugi. Comme des Garcons の 川久保 玲 の衣装・美術、ということで話題のこの作品は、 僕も一番楽しみにしていたものだが、期待を裏切らず、前の2つの作品の印象も ほとんど忘れてしまうほど、圧倒的によかった。ミニマルさが魅力ではないが。 これだけでも観に行った甲斐があったと思う。 幕が上がると、まるで Comme des Garcons のブティックのよう。壁の白っぽい色も もちろん、8×9に並んだ蛍光燈が圧巻。横にも壁を作り、パースを強調した感じに してある。衣装は、Comme des Garcons の'97春夏コレクションで話題になった、 コブコブのドレスだ。衣装は明らかに性差のあるものだが、長いワンピーススカート のドレスを着ている男性ダンサーがいたり、ショートパンツタイブの衣装を着た 女性ダンサーがいたり、と、そのズラシ具合も良い。最初は、白地に太いグリーンの チェックもしくはブルーのストライブでカラフル。途中で吸い込まれるような黒の 同形の衣装に、さらに、鮮やかな赤に変わっていく、という色の変化もいい。 コブコブの衣装は体のラインを変化させるわけだが、見る角度でかなり違うので、 ダンサーが回転系の動きをすると、その変化がとても面白い。最後、赤い衣装で ダンサーが舞台に勢揃いして、それぞれがその場でチョコチョコと回るところが あったのだが、それがとても面白かった。 衣装のせいもあるのか、ダンスの動きもユーモラスに見えたし、踊りながら笑顔を 見せるダンサーも印象に残っている。New Order, "True Faith" のプロモーション・ ヴィデオに出てくるダンサーたちを、ふと思い出してしまった。黒い衣装から赤い 衣装に変わるところで、拘束衣のような赤い衣装を着たダンサーが落ちるように 側から出てきて、それを黒い衣装を着たダンサー4人が横に抱える、というところが あるのだけど、そういった所が特に、"True Faith" っぽかった。まあ、コンテン ポラリー・ダンスではよくある振付なのだろうが。 しかし、最も印象に残っているのは、小杉 武久 の演奏。席の目の前で演奏して いたこともあるのだが。ループやリバーブをかけながら演奏するエレクトリック・ ヴァイオリンの唸るような響きのテンションの高さが凄い。たまに、音響オブジェや 声 (というより息の音) も用いながら、ほとんど舞台の上など気にするようすも 見せず、演奏に没入する 小杉 の発するオーラも凄く、つい舞台でなく、そちらを 観てしまうこともあったほどだった。是非、CD化して欲しい音だ。ダンスとは別に、 小杉 だけのコンサートも観てみたくなってしまった。 98/10/24 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕