タムラ サトル 現代美術製作所, 墨田区墨田1-15-3 (東向島), tel.03-5630-3216, http://www.ask.or.jp/~factory/ 98/10/24-11/29 (月火祝休), 12:00-19:00 (土日12:00-18:00) 1年前、駒場寮の一室で部屋いっぱいのワニの模型をぐるぐる回していた作家の 新作展覧会。今度は、ワニの模型ではなくクマの模型。 高さ2m以上ある立ち上がった二匹の子連れのクマの模型が、もしくは、四つ這いに なったクマが、プロペラによる風力で唸りを上げてレールの上を走るというもの。 そのプロペラの付け方も大胆で、立ち上がったクマの場合は3つの穴が開けられて、 そこに付けられている。四つ這いのクマの場合は背中が切り取られ、そこに3つ 設置されている。 ワニが回っているときも、同じように思ったが、わけがわからないけれども、 とりあえず面白い。瞬間芸的なギャグに近い。四つ這いのクマの作品は、速度が 出過ぎて壁面激突もしくは脱線の危険があったようだったのだけど、実際に壁面に 激突したらもっとウケるだろうなぁ、とか思ってしまうほどだ。瞬間芸という 意味では状況依存性があって、廃屋のような駒場寮の空間とか、町工場跡を使った 現代美術製作所というのも、重要な気がする。東京都現代美術館の巨大なギャラリー 空間の片隅でワニが回っていたりクマが走ったりしていても、面白くないように思う。 今回の作品の題名はそうでもないが、駒場寮での展示のときの「ワニが回るんです」 という題名の付け方にしても、90年前後に流行した『流行るんです』『ゴールデン・ ラッキー』といった、ナンセンス系のギャク漫画にも共通するところがあると思う。 2年ほど前、小山 登美夫ギャラリーで『PicoPico Show』というイヴェント/展覧会が あり、そこでのコンセプトに竹熊 健太郎の「ピンチョロなアート」というのがあった。 しかし、このイヴェントは「ピンチョロなアート」をやろうという力みばかり伝り、 場がぜんぜん「ピンチョロなアート」ではないような印象が残っている。むしろ、 この、ワニがぐるぐるしていたり、ガーッっとクマが走っている方が、ピンチョロ スッポーンかもしれない。 その一方で、ナンセンス・ギャグ・マンガの寿命を見るにつれて、この手の作品は あっというまに飽きてしまうのではないか、という気もする。もちろん、マンガに 比べて、この無意味に動く動物の模型の存在感は遥かに身体的に感じられるもので、 絵や言葉で読み取るナンセンスとはかなり違うところもある。それに、マンガが 毎週新作を出しつづける一方で、その作品はそんなに頻繁に新作を体験できるわけ ではない。その身体感覚を忘れかけたころに出会えば、飽きるということも無いの かもしれないが。 98/11/4 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕