『写真―可能性のかたち: ドイツ・ディージー銀行コレクション』 _The Promise of Photography: The DG Bank Collection_ 原美術館, 品川区北品川4-7-25 (品川,五反田), http://www.haramuseum.or.jp/ 98/10/24-99/1/17 (月休;11/24,12/28-1/4休;11/23開), 11:00-17:00 (水-20:00) - 荒木 経惟, Anna & Bernhard Blume, Christian Boltanski, Walter Dahn, Guenther Foerg, Gisele Freund, Andreas Gursky, Anton Henning, Ilya Kabakov, Barbara Klemm, Sherrie Levine, Ryuji Miyamoto, Inge Rambou, Thomas Ruff, August Sander, Beat Steuli, Thomas Struth, 杉本 博司, Wolfgang Tillmans, John Waters ドイツの銀行のコレクションに基づく写真の展覧会。原美術館の展覧会という ことで、展示室などを勘案して、セレクションしていること。作品は1920年代から 現在に至るまであるが、独、日、そして米国の写真家によるものが中心で、 20世紀の写真の歴史をなぞるものではない。 いわゆる「真実に迫る迫力のドキュメンタリー」という写真がほとんど無いのが、 面白かった。ドキュメンタリーに属するといえる写真はあるのだけど、初期のもの にしても、有名な August Sander の労働者の一連のポートレイトだったり、と、 タイポロジー的な色合いが強いのだ。最近の写真では、Inge Rambow, _Devastated Landscape_ シリーズ。採掘が止まり荒廃した旧東ドイツの鉱山の様子を捉えた 写真なのだが、それすら、畠山 直哉 の『ライム・ワークス』のような感じなのだ。 廃虚の写真といえば、宮本 隆司 の神戸大震災の後の様子を捉えた一連の写真も あったが、これも、震災の悲劇のドキュメンタリーなんかでは全くなく、彼が今まで 撮ってきた建築写真やその解体風景の写真同様の冷徹で造形的な写真だ。いずれも、 キャプションが無ければ、そのような「悲惨」な光景を捉えた写真だとはわからない ほどだ。「悲惨を芸術に変える」ということをしないために、最初から悲劇を持ち 込まない、とでもいうかのような、この Inge Rambow と 宮本 隆司 の冷徹な写真は、 この展覧会のハイライトの一つかもしれない。 ドイツのタイポロジーな写真といえば、Bernt & Hella Becher の写真が有名だが、 彼らの作品はなかった。しかし、その弟子たち Andreas Gursky, Thomas Ruff, Thomas Struth といった作家の作品が観られる。日本では、畠山 直哉 や 柴田 敏雄 が無いのがちょっと意外だったが、杉本 博司 はもちろんあった。 この展覧会のもう一面は、むしろコンセプチャルな現代美術の一形態のとしての 写真が意外と取り上げられていた。Christian Poltanski や Ilya Kabakov の作品 などまさにそうだろうが、写真で作品が閉じておらず、付随する物語を知らないと なんだかよくわからなく、何か弱いものを感じた。そんな作品の中では、映画監督の John Waters の作品 _Payton Place - The Movie / The Document_ が、その穏やかな 画面と、パンフレットで読むことができる物語の落差が最も感動的だった。 あと、Sherrie Levine, _After Degas_ ('87) は所謂 simulationism な作品だが、 印象派とスナップショット写真の関係をも連想させるような小品で、展覧会の中では 浮いていたような気がするが。 しかし、この展覧会で唯一ドキュメンタリーという感が強い、Gisele Freund の、 ナチスによる政権奪取直前の左翼による反ファシズム・デモを捉えたの写真、 特に「写真も階級闘争の武器である!」というスローガンを掲げた写真は、 スローガンともども、この展覧会の中で宙ぶらりんの位置にあるようで、ちょっと 考えさせられてしまった。ブックレットで読める Gisele Freund のエピソードは それはそれで興味深いのだけど。 あと、全体から受ける印象がモノクロームなのは、カラー写真が保存に、つまり、 コレクションに適していないからなのだろうか。 ちなみに、ミュージアム・カフェである Cafe d'Art で出されるこの展覧会の イメージ・ケーキは、展示されている写真作品のイメージは用いておらず、 カメラを象っている。展覧会によっては今までもこういうことはあるのだが、 なんだかちょっと反則っぽく感じる。クリームたっぷりでとても甘いチョコレート・ ケーキだ。 98/11/8 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕