名作椅子に座る ― 武蔵野美術大学美術資料図書館近代椅子コレクションより 武蔵野美術大学美術資料図書館, 小平市小川町1-736 (鷹の台), tel.042-342-6003 98/11/26-12/8 (前期) 12/10-12/25 (後期) (日祝休;12/9休;12/6,13開), 9:00-17:00 武蔵野美術大学美術資料図書館の近代デザインの椅子のコレクションから、 前期、後期100点ずつ、計200点の椅子を公開するという展覧会。それも、 その半数は、実際に座って体感することができる。実際に座ることが出来る、 というだけでも、お勧めの展覧会だ。 会場には100点の椅子が2m間隔でずらりと並べられていた。痛みやすい椅子や 量産中止になっている椅子は台の上やショーケースの中に展示されており、 触ったり座ることはできないのだが、それ以外は、マットの上に置かれており 特に監視員などの指示を受けることなく、自由に座ったり持ち上げてみたり できるようになっていた。 展示されていた椅子のタイプは、カタログでの分類に従えば、イージーチェア、 アームチェア、サイドチェア、スツールがあり、用途によって、その大きさや 形状、座り心地はかなり違うのだけれども。 残念ながら前期の展示は観られ (体感でき) なかったので、後期の展示の中から いくつか個別にコメント。 イージーチェアでは の Eero Aarnio の "Pastille/Gyro" (1967) と "Ball/Globe" (1963) が面白かった。前者は黄色いFRP製の楕円体に体を入れるへこみを作ってある、 というもの。窮屈かもしれないが、造形的にポップな感じも目を惹く。"Ball/Globe" はFRPの銀色の球の中に黒いクッションがひいてあるというもの。開口部が小さくて、 中に入ると外の風景が丸く切り取られて見えるし、音も遠くなる。中の居心地も 良くて、部屋の片隅に置いて逃避するのにはうってつけの椅子かもしれない。 Eero Aarnio の椅子はちょっと自閉的な点が個人的にはヒく感じもするのだが。 で、イージーチェアの中で一番気に入ったのは、Ludwig Mies van der Rohe の "Barcelona Chair" (1929)。背や脚の体感がぴったりという感じだったし、 見た目シンプルなのに豪華な感じが良かった。 De Stijl の椅子で有名な Gerrit Thomas Rietvelt, "Red And Blue" (1918) は、 あの直線的な形状からしていかにも座り心地悪そうなのだが、座った感じは 意外と安楽。ただ、座面が低すぎるかもしれない。Bauhaus の革張椅子で有名な Marcel Breuer, "Wassily" (1926) や Le Corbusier, Pierre Jeanneret, Charlotte Perriand, "Basculant Chair / Sling Chair" (1928) の方が座り心地 悪かったかもしれない。特に "Basculant Chair" の毛の付いた革張りはちくちく し過ぎ。で、イージーチェアのワーストは、Alvar Aalto, "Paimio" (1931)。 Aalto、人間主義がこれでいいのかー。 アームチェア、サイドチェア・ストールの部門のベストは、Marcel Breuer, "Cesca" (1930)。すっぽり座れて、座面の高さといい座り心地がとてもいい。 この類のは、座り心地の良し悪しのばらつきがあまり多くなく、デザイン的にも それほど奇抜なことをやっているものはないので、コメントし辛いのだが。 "Red And Blue" でちょっと期待させた、Gerrit Thomas Rietvelt, "Zig Zag" (1932) は、さすがに座り心地悪かった。Aaro Saarinen, "Tulip Chair" (1956) は、Eero Aarnio とも共通するFRPを使ったポップで造形的な椅子だけれど、 今まで写真で見て想像していたよりも座り心地が良かった。で、ワーストは、 Charles Rennie Mackintosh, "Hill House 1" (1902)。あれは、座るものでは なく、飾りに置いておくものだと、痛感。 さて、こうして体感して楽しむことできることがこの展覧会の素晴らしいところ なのだが、この展覧会のカタログが、また素晴らしい。展示された全200点の 椅子のうち50点について、男女別の、体圧分布図、構造・造形性、感覚性、機能性 に関する体感調査の結果のチャートが付いているのだ。写真にしても、特徴的な 構造部のクローズアップ写真がある。商品カタログでは得られない、大学での 展覧会カタログではの興味深い内容になっている。展覧会を観に行かれない人でも、 カタログだけも手に入れる価値があるだろう。お勧めだ。 しかし、椅子に限らず、こういうデザイン展が、公立美術館でももっと開催されて も良いのではないか、とも思う。特に、体感評価などは、見本市や商品カタログ ではなく、中立な展覧会だからこそ可能なものだと思う。 あえて不満な点を挙げれば、椅子というのは、通常、テーブル・机と組んで使う ものであり、椅子だけ扱うというのも不自然に感じることがあった。全ての椅子に 対しては無理でも、いくつかの椅子で机などインテリア・コーディネートをした 空間を作ってあっても面白かったのではないか、と思う。 98/12/20 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕