現代美術や近代建築・デザインの展覧会をよく開催してきたセゾン美術館が 1999年2月に閉館になる。その最後の展覧会に行ってきた。といっても、 独自企画でないのだけれども。 アルヴァー・アールト ― 20世紀モダニズムの人間主義 Alvar Aalto, _Between Humanism and Materialism_ セゾン美術館, 豊島区南池袋1-28-1 (池袋駅東口西武百貨店南隣), tel.03-3272-8600, http://www.mediagalaxy.co.jp/sezonmuseum/ 1998/12/19-1999/2/15 (1/1,19,26,2/2休), 10:00-20:00 (12/31-1/5は10:00-19:00) 生誕100年を記念してニューヨーク近代美術館 (MoMA, NY) が組織した、 20世紀のフィンランドを代表する建築家 Alvar Aalto (1898-1976) の回顧展が、 巡回してきた。さすが、国際巡回展だけあってしっかりした企画だと感じた。 うねっとした曲面を使うことが特徴的で、それが「有機的」といえばそうなのかも しれないけれども、_Turun Sanomat Building_ (1928) (特に、大きな新聞ショー ウインドー)、_Paimio Tuberculosis Sanatorium_ (1929-33) や _Viipuri City Library_ (1927-35) のような極めてモダニズム的な建物の方が良いな、と思って しまった。_Viipuri City Library_ については auditorum が再現されているの だけれども、Aalto らしい「有機的」に波打った天井は一見の価値がある。 例えば Paris 万博のパビリオンの内壁って、あのようなうねうねがそびえていた のだろうか、などと思ってしまった。 Maire and Harry Gullichsen の個人邸宅 _Villa Mairea_ の池が巨大な "Aalto Vase" みたいだったのは可笑しかったけれど、Gullichsen のパルプ工場とその 従業員集合住宅である _Sunila Pulp Mill and Housing_ (1936-38) の方が、 意匠的な問題にとどまらず、「社宅」とも言える制度や職位等による工場と 居住地の位置関係の問題も含めて、近代主義の具現という意味で興味深かった。 他の集合住宅のプランを見ても、日本での展覧会では「20世紀モダニズムの 人間主義」とあるが、MoMA, NY での題名「人間主義と物質主義の狭間で」の 方がしっくりくるところがあった。単に、僕が「人間主義」という言葉を胡散 臭く思っているだけかもしれないが。 Aalto は家具デザインも手掛けていて、その家具が Gullichsen らと設立した Artek 社によって今でも製造販売されている。そのスツールやサイドチェア、 サナトリウムのために作られたイージーチェア "Paimio" が会場のあちこちに 置いてあり、実際に座ることができるようになっていた。"Paimio" の座り心地 の悪さは、サナトリウムに置くものとしては問題あるように思ったが。実際には 上にクッションを置いて使うものなのかもしれない。関連して目についたのが、 「挽き曲げ」した木の壁飾り。美しいというわけじゃないのだが。Aalto の 木製椅子の足などの曲線を出すために、ラップ族のソリの加工から学んだという 「挽き曲げ」加工が使われている、ということは知ってはいたのだが。 その壁飾りを見て、実はこの加工が実に凝ったことをしているのだと知って、 感心してしまった。 二次大戦後の『「有機的建築」の展開』の展示は、あまりピンと来なかったの だけれども、写真ではなく実物を見れば、その独特の曲面も面白く見られるの かもしれない。 1999/1/2 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕