『ルル・オン・ザ・ブリッジ』_Lulu On The Bridge_ - USA, 1998, Color, 103min. - Directed and Written by Paul Auster. Original Music by John Lurie and Graeme Ravell. - Harvey Keitel (Izzy Maurer), Mira Sorvino (Celia Burns), etc 「ニューヨーク三部作 "The New York Trilogy"」(『シティ・オヴ・グラス _City Of Glass_』(1986)、『幽霊たち _The Ghosts_』(1996)、『鍵のかかった 部屋 _The Locked Room_』(1986)) で知られる小説作家の単独映画監督第一作は、 ちょっと甘めで幻想的な恋愛映画、とでもいう出来だった。Paul Auster の 「ニューヨーク三部作」は大好きな小説なのだが、正直なところ、それ以降は あまり追いかける気がしない。前に映画化した『スモーク』も観ていない。 主人公が銃に打たれてから人生が変わってしまったのか、それとも、死ぬまでの 間に頭の中を過ぎった夢というか幻想なのか、とでもいった設定になっているの だけど、それならもっと非現実的 ― SF風、ファンタジー風という意味ではなく 例えば Hal Hartley の映画に見られるような現実性の無さ ― な展開にして しまえば良いのに、とも思う。実際はそんなに現実的な展開ではないのだけれど、 ふっ切れていない。小説の映画化にありがちな「心理的リアリズム」的な面に 足をとられかかっている。小説でも幻想的/メタフィクション的な手法を取る 作家ではあるが、映画では妙に説明的になっている。そのせいか、むしろ、 甘い恋愛話をする照れ隠しで「実は幻想でした」と言い訳しているようにさえ、 思えてしまう。 ミステリー的な鍵となる物を契機に、一瞬にして恋に落ちる、という映画における 展開など、彼らしいとは思う。しかし、小説ではなく映画で表現するときに、 それが暗闇の中で光る石、と、いささか安っぽい映像になってしまうというのは 問題があるかもしれない。映画とは小説の言葉が発していたオーラを俗っぽく してしまうものなのかもしれないが。それなら違う展開を考えるべきだろうに。 そんな中では、主人公が昔の妻と彼女の今の夫との夕食の席で聞かされる飛行機の トイレでの逸話、など面白かったし、このような、映画の中心的な話の流れとは あまり関係ない、時として遮る (異化する) ような要素をもっと詰め込んでも 良いように思う。 映画の作風としては、うまくすれば Jim Jarmusch や Hal Hartley あたりの後を 狙えそうな気もするのだけど、いささか小説家あがりな所を感じさせてしまう、 そんな映画だった。 実は、この映画の一番の目当ては、音楽だった。映画オリジナルの曲を書いた John Lurie & The Lounge Lizards をはじめ、Don Byron, Medeski Martin & Wood, The Holy Cole Trio など、Knitting Factory 界隈で活躍し、Blue Note レーベル (契約の都合か、このレーベルのみ。) と契約しているミュージシャンの曲が主に 使われている。Original Soundtrack, _Lulu On The Bridge_ (Blue Note, X-95317, 1998, CD) というCDも出ている。けれども、Jim Jarmusch (特に _Stranger Than Paradise_ (1984)) 程には John Lurie の音楽を使いこなせていないように思う。 むしろ、主人公のバンド仲間役として出演している Don Byron が、その音楽から 感じられるインテリ黒人臭を感じさせないファンキーな黒人を演じていて、その ギャップが面白かった。あと、Lou Reed が、娼婦を買う Lou Reed そっくりさん役、 というチョイ役で出てきて、そのバカっぽさが笑えた。こういうのも、Auster の New York 人脈ならではなのかもしれないが、この役者の無駄遣いっぷりも楽しめて しまったし、それだけでも観て良かったと思うが。 1999/1/27 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕