渡辺 好明『光ではかられた時』 斎藤記念川口現代美術館, 川口市芝新町8-32 (蕨), tel.048-261-7878. 1999/1/22-3/21 (月休), 10:00-17:00 蝋燭に並べて点灯する、というインスタレーションで知られる作家の展覧会。 週末の点灯時に合わせて展示を観てきた。 僕が観たときは、一階入ってすぐのギャラリーのフロアいっぱいの大きさに 正六角形の辺と何本かの対角線の上に一列に、高さ5cm、直径5mm程度の白い蝋燭が ずらりと並べられていた。床に残った痕跡からすると、日によって描かれている 図形は異なるようだが、単純な幾何的形状であることには変わり無い。芯は隣の 蝋燭から火が移るように曲げられていた。で、六角形の一つの頂点にあるから 点火。少しずつ燃え広がっていくのを観る、というものだった。 蝋燭と火による「ドミノ倒し」という感もあるのだが、燃え広がっていく時間が とってもゆっくり。1時間経っても六角形の一辺の半分、1m程度しか燃え進まな かった。ギャラリーは特に照明を落とすこともなく、通りに面したショーウィンドー 的な扉から自然光が差し込んでくる明るい空間。蝋燭の明りの妙を楽しむという よりも、むしろ、蝋燭に火が移っていくじりじりとした時の進み方を意識させ られた、そんなインスタレーションだった。そういう意味では「光」よりも「時」 に主題を置いた作品かもしれない。 しかし、その一方、二階の暗いギャラリーに置かれた、直径1mはあろう球形の白い 蝋燭は、既にかなり燃え進んで、直径10cmほどの穴の15〜20cm程の深さの底で 火が点がついていたのだが。その深さに時間を感じるというより、その光が揺ら めく様子が分厚い蝋の層を微かに抜けて、球体全体が微妙に光り蠢く具合がとても 印象的な作品になっていた。 三階のギャラリーは、既に燃やした後の痕跡を展示してあったのだが。壁に一列に 白い蝋燭を並べて、一方から火を付けて燃え移らせていく作品は、その壁への煤の 付き方のむらが乱れのあるパターン模様を生んでいて、それが奇麗だった。 それは、細長いガラス板の上に白い蝋燭を倒した状態で並べて、火を付けて燃え 移らせた跡の作品にしてもそうなのだが。規則的に蝋燭が並べられながら、 その燃え残り方の違いがそれに不規則性を生まれさせるところが、形態的に 面白かった。 これは、一直線といったミニマムな形状だから生きる、というところもあって、 フィナボッチ曲線の上に並べたような作品では、ちょっと狙いすぎで、蝋燭の燃え むらといった面白味が映えないように思う。 蝋燭の作品とは全く別に、蝋燭の蝋が流れた跡を模したような透明な樹脂で 作られた作品もあったが、単純に壁にかけられてもいまいち面白味に欠けるかも しれない。一般の建物の窓にそれを貼りつけたインスタレーションの写真を観る ことができたのだが、そちらの方は面白そうには思ったけれど。 この展覧会で観た作品は繊細な印象を受けたが、過去の作品の図録をみたら、 屋外で高さ10mはあろう崖を使った巨大な蝋燭の作品もあり、その燃え盛る様子の 写真は、蔡 國強 の爆発作品に近いダイナミックさも感じたが。これは、いささか 例外的な作品のようにも思う。 会場の痕跡や記録写真からも火が付いて広がっていく様子はある程度想像できるが。 その燃え進んでいく適当な時の流れの遅さは、実際に観ないと実感することが できないかもしれない。ぜひ、点火の時間に合わせて観に行くことをお勧めしたい。 ちなみに、点灯時間は、土曜14〜15時、日曜祝日14〜16時、あと1/22,2/19の18時 からのアーティスト・トークの後、となっている。 決して派手で刺激的な展示ではないけど、地味ながら渋い味わいの展覧会に なっている。 1999/2/28 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕