去年末に武蔵野美術大学美術資料図書館で『名作椅子に座る』展を観て以来、 プロダクト・デザインがちょっとしたマイブームなのだけれども。その前の去年 4〜5月頃に、埼玉県立近代美術館で『いす・100のかたち』展という、やはり椅子の 展覧会があった。やっていたことはなんとなく気付いていたが、その頃はそれほど 惹かれることが無かったので、行かなかったのだが。行っておけばよかった、と 少々後悔していたところ、こんな CD-ROM があることを知ったので、入手してみた。 _100 Masterpieces: from the Vitra Design Museum Collection_ (Vitra Design Museum / ZKM, ISBN3-9804070-6-3, 1996, CD-ROM) - Windows 95 / MacOS 7 or later. 『いす・100のかたち』展 (埼玉県立近代美術館, 1998/4-5) で展示された Vitra Design Museum の100の椅子のコレクションの CD-ROM。Macromedia / QuickTime で 作られており、Windows / MacOS の両方に対応している。 100脚の椅子のデータベースで、各椅子毎に画面数枚分のデータがある。椅子の データの最初の画面は、斜め前やや上方から捉えた写真に、名前、デザイナー、 デザイン年、製造期間、製造者、サイズ、素材のデータが添えられたものだ。 さらに数画面に渡って、部品に分解された様子や、製造している様子、使用されて いる様子の写真に簡単な説明が添えられている画面が続き、最後の画面に解説文の 画面が来る、という構成になっている。デザインに関する百科本として標準的な 情報なのだが、『名作椅子に座る』展の「体圧分布図」や「体感調査」のような 面白い切り口が一つ欲しかったように思う。 椅子は、「年代順 "Chronological"」「グループ別順 "Groups"」「デザイナー名順 "Designer Names"」「椅子の名称順 "Chair Names"」の4つの観点でブラウズでき、 椅子のサムネイル写真で選択するようになっている。「年代順」は年表のような枠に サムネイルが配置されているインターフェスなのだが、残りの3つ観点は10x10の マトリックスにサムネイルが配置され、観点を選択するとパタパタとマトリックスの 写真の配置が変わるのは可愛い。ちなみに、グループ分けは、「技術 "Technology"」 「構築 "Construction"」「還元 "Reduction"」「有機的デザイン "Organic Design"」 「装飾 "Decoeation"」「宣言 "Manifest"」の6つになっており、それぞれ、 橙、青、紫、緑、黄、赤、というテーマカラーが与えられている。このグループ 分けがこのコレクションの独特の観点なのかもしれないが、いまいちピンとこない のが、切り口の甘さを感じてしまうせいかもしれない。 しかし、確かに、サムネイル写真でブラウズすることができるのは、デザイナーや 製造者などが判らないときには便利なのだが、検索機能が無いのは不満だ。特に、 解説文に対する全文検索機能など、紙メディアではなくコンピュータでこそ実装 できるものだと思うし、それがあれば、もっと様々な切り口で椅子を見ることも できたかもしれないのに。小技はけっこう可愛らしくグラフィック的には気にいった けれども、どうも、紙のカタログのアナロジーから抜けきれていない ― せいぜい、 データカードのシャッフル的な機能が付いた程度 ― のように思えてならない、 という意味では不満の残る CD-ROM だった。 _ _ _ 椅子のデザインの資料ではないが、この本も軽く紹介。もちろん、椅子も多く 扱われているが。 Penny Sparke, _A Century Of Design: Design Pioneers Of The 20th Century_ (Mitchell Beazley, ISBN1-84000-000-7, 1998, book) - 29cm x 24cm, 272pp, color. デザイン、といっても、ここで取り扱われているのは、家具や食器、家庭電化製品、 事務機から自動車や鉄道車両まで、いわゆるプロダクト・デザインを扱った本だ。 基本的にデザイナー別に項目を作り (場合によっては、デザイン・チームや製造者 もあるし、素材の項目もあるが。) まとめられた本で、デザイナー、というか項目 毎に2〜4頁割り当てられ、紙面の1/3ほどのプロダクトの写真と比較的長めの解説文 が載っている。解説文は写真を説明するものではなく、むしろデザインの歴史的・ 社会的背景などを中心に述べたものになっている。紙質はよく図版の色は奇麗だ。 項目はさらに、大きく "The New Century"、"Conservative Modern"、"Progressive Modern"、"The New Modern"、"Action And Reaction"、"Towerds The Millennium"。 最初の3つが戦前のデザインで、黎明期、(普通の) モダン、アヴァンギャルド、と いう感じでわかりやすいのだが、戦後の3つのグループ分けは微妙なような気がする。 工法・技法よりも歴史やデザイナーに焦点を当てた記述は、デザイナーにとっては 不満があるのかもしれないが、図版も多いので、広くプロダクト・デザインを概覧 できる、あまりデザインに縁が無い人にも楽しめる本のように思う。 1999/3/1 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕