新刊本ではないのだが、最近入手して気にいった本なので紹介したい。 Ellen Lupton and Elaine Lustig Cohen _Letters from the Avant-Garde_ (Princeton Architectural Press, ISBN 1-56898-052-3, 1996, Book) - pp.96, W28cm X H22cm, paper. 1915年から1950年の間にデザインされた、レターヘッド、ポストカード、封筒などの 写真図版を150点以上集めた、グラフィック・デザインの本。主に1920s, 1930s の Europe の Avant-Garde 運動を推進していたアーティスト、デザイナーが使った ものを集めてある。 図版は、主な運動ごとに、"Futurism"、"Dada + Surrealism"、"Constructivism"、 "Dutch Modernism"、"The Ring"、"Bauhaus"、"Architecture + Design In France"、 "Popular Modernism"、"Modernism In America" と章分けされている。"Futurism" はもちろん、Italia のもの。"Constructivism" では Soviet Union のものだけ でなく、Hungary, Czech, Poland といった中欧のものも取り上げられている。 "Dutch Modernism" はもちろん、De Stijl。"Bauhaus" では Das Neue Frankfurt も取り上げられている。"Archtecture + Design In France" では Le Corbusier 界隈が取り上げられている。"Popular Modernism" は Avant-Garde の影響を受けた 当時の匿名のデザイン物、"Modernism In America" では1940s に Europe Avant-Garde の影響を受けて America から出てきたデザイナーによるものが 取り上げられている。 中でももっとも興味深かったのは、"The Ring" の章。Kurt Schwitters が設立した 商業デザイン集団 Ring "Neue Werbegestalter" (Circle of New Advertising Designers) のデザイナーたちの作品を集めた章。明らかに他の章のものよりも 洗練されている。Kurt Schwitters のデザインも良いのだが、特にいいのが、 Jan Tschichold のデザインのもの。Tschichold は、_The New Typography_ (1928) というマニフェスト的な論文で知られるのだが、それを書くだけあると納得の出来だ。 と、レターヘッドや封筒のグラフィック・デザインという限られたものにも関わらず、 この本はとても面白いものとなっている。編者によると、当時の Avant-Garde 運動の 推進者たちは郵便を介して国際的に機関紙を送るなどのプロモーションを行っており、 レターヘッドなどのデザインはそのCIデザインとも言え、彼らの運動のマニフェスト と言えるものになっている、という。さらに、建築などと違い経済的な制約が ほとんど無いので、妥協のあまり無いデザインがされている、とも言っている。 実際にこの本の写真図版を見ていると、そういう編者の主張も納得したくなるような、 デザインの主張の強さを感じるように思う。これがこの本が面白い理由の一つだ。 この本を面白くしているもう一つの理由は、1920s-1930s の Europe の Avant-Garde 運動を横断的に取り上げていることだ。9章に先立つ解説の章の題は "Networks"。 当時の Avant-Garde 運動が形成していた国際的なネットワークを、これらの レターヘッドや封筒で浮かび上がらせている感がするからだ。Avant-Garde 運動の ネットワークの基盤は、機関誌、刊行物、個人的な手紙だったわけだが、そこで、 こういったレターヘッドや封筒が使われていた、という意味で。グラフィック・ デザインへの興味ではなく、当時の Avant-Garde 運動への興味という点でも、 楽しめる本になっていると思う。 _ _ _ 大戦間の Avant-Garde 運動は Europe をネットワーク的に展開したうえ様々な 分野にわたるものだったと思うだけに、国やジャンルを限って書かれた Avant-Garde に関する本を読むと、物足りないものを感じることが多い。そんな中で比較的 網羅的な資料本として重宝しているのが、この2冊だ。 _Paris-Moscou_ (Centre Georges Pompidou / Gallimard, ISBN2-07-011225-0, 1991) _Paris-Berlin_ (Centre Georges Pompidou / Gallimard, ISBN2-07-011247-0, 1992) それぞれ、1979年、1978年に Centre Georges Pompidou, Paris で開催された展覧会の カタログを、小型廉価新装版にしたもの。それぞれ、c.1900-1930 の Soviet Union と Germany の近代的表層文化を、France での動きと関係付けながらまとめたもので、 扱っているのも、美術、建築、グラフィック・デザイン、プロダクト・デザイン、 文学、演劇・バレエ、音楽、写真、映画、などなど、純粋芸術から応用芸術、 エンターテインメントに至るまで、約800頁という量にまとめてある。様々な分野 での Avant-Garde / Modernism 運動が見渡せるし、point-to-point 的とはいえ 国際的なネットワークも感じさせる編集になっているのが良いと思う。 特に、_Paris-Moscou_ 展は、今日の Russia / Soviet Avant-Garde 再評価の口火を 切った伝説的な展覧会であり、その資料という意味でも、_Paris-Moscou_ は貴重 かもしれない。 惜しむらくは、カラーの図版がさほど多くないうえ、豊富なテキストも全てフランス 語であること。特に、_Paris-Berlin_ の方には、当時の作家がその当時に書いた エッセーが多く載っているだけに、ほどんど読めないというのは、とても残念だ。 せめて、英訳が出れば、読めるのだが。 1999/3/13 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕