杉本 博司『In Praise Of Shadow』 ギャラリー小柳, 東京都中央区銀座1-7-5, tel.03-3561-1896 1999/4/6-28 杉本 博司 の新作はもはや写真作品ではなく、光にを使ったインスタレーション とでもいうものになった。 入口に張られた暗幕をくぐって中に入ると、暗いギャラリーの中、目の高さに 合わせてスタンドに立てられた火のついた蝋燭と、やはり同じようなスタンドに 立てられた8×10サイズの白黒ポジフィルムが高さを合わせて3組並べられている。 フィルムには、和蝋燭が点火から燃え尽きるまでの間露光したと思われる画像が 焼き付けられている。火のついた蝋燭とフィルムの組は、まるで今ここで蝋燭の 火がフィルムに焼き付けられていっているような錯覚 ― フィルムに痕跡を残した 蝋燭と、今燃えている蝋燭は、別なのは明らかなのだが ― を誘うような所もある。 蝋燭側に立って (こちらが入口側で空間も広く取られている)、フィルム側を観ると、 蝋燭の光によるフィルムの影が、そして、その中に炎の形に抜けた明るい部分の 揺らめきが、蝋燭と炎と対を成していて、その呼応がいささか幻想的とでもいう 雰囲気も出している。 しかし、ここで、視点をフィルムを通して蝋燭の光を見る方 (こちらはあまり 空間を取っておらず、そもそも人が回り込むことは想定していないかもしれない。) に持っていってみよう。すると、白黒ポジフィルムは蝋燭を光源とするライト ボックスのようになり、光の痕跡の中で今燃えている蝋燭の光の位置が光ること となる。その、いささかトリッキーな感じがとても面白い。 とてもシンプルな構成で、蝋燭の炎を観、記録するということについて体感させて くれるインスタレーションだ。和蝋燭の光の明るさも独特の渋い雰囲気を醸し 出している。お勧めしたい。 1999/4/10 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕