(通称 トリのマーク)『ヴァロ & 木の帽子』 NADiff (表参道), 1999/5/16 16:00- - 台詞+演出: 山中 正哉, 出演: 柳澤 明子, 丹保 あずさ, 出月 勝彦, 嶋守 千広, 山中 正哉. 劇場ではなく、ギャラリーや特別な建築物などの空間を選び、その場所に合わせて 劇を創っている劇団、通称「トリのマーク」(実際は、『不思議の国のアリス』に 出てくるドゥドゥという鳥のシルエットのようなマークが、劇団名になっている。) の公演を観てきた。予備知識はこれだけしか無かったのだけど、劇場を使わない サイト・スペシフィックな劇、ということが気になったので。実際のところは、 良くも悪くも緊張感の低い和む感じの劇であった。「女の子」っぽい感じだけれど、 少女漫画趣味とかいうのとは違う。 会場は、表参道のギャラリー、カフェ併設の美術関係の本、CDやグッズを売って いる店 NADiff。店の一角に20席ほどの観客席が作られており、そこに座って開演を 待つといった具合だ。ちなみに、上演中も NADiff は営業を続けており、一般の 客も出入りしていた。 いつ始まった明確にかわからないのだが、突然、店内を歩いている女性がばたっと 倒れたことにより、それが俳優の一人であり、劇が始まっていることに気付いた。 その女性は普通の客にしては ― 席に座って観ている分には ― 明らかに振る舞いが 変で、店に並べられている商品を手に取ってはいろいろ弄んでいるのだけれど、 比較的普通の服装をしているうえ、声を発しないせいか、一般の客はほとんど全く 気にかけていない。いる客はみな劇団のエキストラではないか、というくらい自然な 感じで、その様子がこの劇の中で一番面白かった。 しかし、しばらくして、ナレーター役の女性が声を発した瞬間、役者を取り巻く 空間と客席を合わせた空間は演劇的な空間になってしまったし、魚の面を被った男が 出てくると、その傾向はさらに強くなったが。その後、観客はナレーター役の女性に 引き連れられて、普段はギャラリーに使っている空間に行くのだが、そこはもはや 仮設の劇場になってしまう。といっても、舞台と客席の距離は狭いし、それは悪いと いうほどでも無いが。 劇が始まる前に封を綴じられた紙袋を渡されたので、劇の中で観客を参加させるのか と思ったのだけれど、単に店内の席から仮設の劇場に連れられていくときに、 その中に入っていた紙の帽子を被る程度。大道芸のように観客を「生贄」にする ことによって観客と演技者の距離を消し去るようなことはしていない、という意味で、 観客と演技者の距離は劇場と同じだった。観客は常に安全な場所から演技を観る ことになるのだ。 この観客の場所の安全さを保証する演出は、店内で演技しながらも店内を異化せずに おくような劇の始まりはもちろん、本にまつわる比較的な無難な主題選定、自然指向 的な女の子っぽさを感じるギャラリー=仮設劇場の美術のセンスにも繋がっていると 思うし、それが、この劇団のテイストなのだろう。もっと緊張感を、と思った所も あるけど、台詞がほとんど無くて明確な物語が無いこともあり登場人物の内面描写が 押さえられていたので、ロマンチックな感じは比較的押さえられていたように思う。 50分という時間が短く感じた、という意味では、さらりと観られる良い意味で リラックスした劇だったと思う。 1999/5/16 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕