4月末から、ユーロスペースで『パゾリーニ映画祭 ― その詩と映像』と 題してイタリアの映画監督 Pier Paolo Pasolini の特集が行われていた。 『ソドムの市』(_Salo, Ole 120 Giornate Di Sodoma_, 1975) などが スキャンダラスに語られる割に、ほとんど作品が上映される機会が無く、 僕もちゃんと観たことが無い監督だったので、これを機会に何本か観に行った。 といっても、スキャンダラスに語られている作品は意外とビデオになって いたりするし、逆に萎えるところもある。むしろそうでない初期の作品に 興味があったので、そちらを中心に3本観た。 というわけで、Pasolini の映画として、ではなく、もっと個別に、簡単な レヴューというか覚え書きを。 『ロゴパグ』_RoGoPaG_ - 1963, B+W/color, 122min, Omnibus. - Directed by Roberto Rossellini, Jean-Luc Godard, Pier Paolo Pasolini, Ugo Gregoretti. 四本の短編からなるオムニバス。全体としてとりとめないのは、やむを得ないか。 Pier Paolo Pasolini の『意志薄弱な男』は、カラーだったのだけれど、 その色使いが人工的というか意識的に使われている感じがしたのが印象的。 キリスト教的なタブーに触れているのかもしれないけど、それをよく知らない 身にとしては、あまり辛辣に感じるところが無かった。 個人的には、Godard の『新未来』(_Le Nouveau Monde_) を一番期待して いたのだけど、中では最も突き放した感じがして、やはり、四本の中で最も 好きな作風。 Roberto Rossellini と Ugo Gregoretti は、わかりやすい風刺物。気楽に 楽しめるものだけど。観た後の印象も弱いかもしれない。 『愛の集会』_Comizi d'Amore_ - 1964, 1963-64, B+W. - Directed by Pier Paolo Pasolini. イタリアのあちこちで人々にセクシャリティについて尋ねたインタヴューを 編集したドキュメンタリー映画に近いもの。特に目立って変わった編集も 行われていないせいか、回答というか反応も違和感もなく、予想された範囲内 という印象を受けた。カトリック的な抑圧が前提になり過ぎている気がして。 それなりに笑える回答もあったが。もう少し、インタヴュー回答者との距離を 取って欲しいというか、回答者間の矛盾を際立たせるような編集をして 欲しいとか、思うところもあった。ときどき音が途切れて自己規制字幕が 出るのが、一番面白く思ったり。 そんな中で、映画の中でコメンテータ的に登場する Alberto Moravia が何かと 順応主義者 (Il Conformista) と関連付けてコメントをするのがとても印象に 残った。ちょっと還元主義に過ぎるというか、『孤独な青年』(Alberto Moravia, _Il Conformista_, 1951) を引きずることは無いだろうという気もしたが。 監督は違うけれども、映画『暗殺の森』(Bernardo Bertolucci (dir.), _Il Conformista_, 1970) の下調べみたいな感じもしてしまった。 『大きな鳥と小さな鳥』_Uccellaccie e Uccellini_ - 1965-66, B+W, 86min. - directed by Pier Paolo Pasolini. 寓話を映画化したような作品。上層労働者階級風の親子と、それに同行する 言葉を喋るカラスの、奇妙な旅という感じ。いくつかの挿話からなり、 それぞれにそこはかとなく寓意があるような感じ。ユーモアも感じられて。 それぞれ楽しめる。個人的には、やはり、タイトルになった中世の頃に鳥に 伝道した話や、最後のカラスの末路の挿話が面白かったが。充分に楽しめた 映画だったけれども、気がかりだった点を挙げると、比較的、物語性を強く 残し過ぎな気もした。もっと脈略無くていいような気がした。 「インテリ左翼」なカラスがどんな「知的」発言をするのか、というのも、 一つの楽しみだったのですが、期待したほどではなく、比較的普通だった。 物語をぶちきってしまう Jean-Luc Godard の映画のナレーションのような ものを無意識に期待していたのかもしれない。それは、物語性を強く残した 感じにも繋がるのだけれど。 1999/6/26 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕