『ベッドとソファ (第三メシチャンスカ通り)』 _Bed And Sofa_ a.k.a. _Tretya Meshchanskay_ - U.S.S.R, 1927, B+W, 95min. - Directed by Abram Room. Written by Viktor Shklovsky. - Vladimir Fogel (Volodya), Nikolai Batalov (Kolya), Lyudmila Semyonova (Lyudia). 1920年代の Soviet Avant-Garde 映画なのだが、物語としても古びていないというか、 1970年前に作られた映画だとは思えないような感じだったのに、ちょっとびっくり。 若い夫婦 (Batalov 演じる Kolya と Semyonova 演じる Lyudia) の家に夫の旧友 (Fogel 演じる Volodya) が転がり込むことによって、自立心強いモガとダメ男2人の 奇妙な三角関係からなる共同生活という感じになって、最後には、どちらが父親か 判らない子の妊娠によってその関係が破綻する、って物語なのだが。そう言って しまうと、いささか、陳腐だが、観ていて引き込まれるようなところがあった。 もちろん、個人的に、こういうプロットに弱いこともあるのだが。 例えば、『突然炎のごとく』 (Francois Truffaut (dir.), _Jules Et Jim_, 1961) とは設定された時代背景も1920年前後とたいして違わないように思うのだが、むしろ 『ベッドとソファ』の方が今に近い感覚に基づいているように思えた。特に、主人公の 女性の扱いの違い、というか、女性の自立観の違いが。もちろん、『突然炎のごとく』 のファッションがベルエポック的に古臭いものであるということも、あるのだろうが。 二人を捨てて、一人汽車に乗って旅立つ、なんていうことは、『突然炎のごとく』 では決してないように思う。 ベッドとソファを象徴的に使う男女三人の関係の描写も興味深かったが、それだけ じゃなくて、その背景となる街の様子が興味深かった。様々な街の交通標識とか、 Fogel の働くモダンな印刷工場の様子とか。あと、Volodya が Lyudia をデートに 連れ出して飛行機に乗るシーンが、とっても印象的。当時、最高にモダンなデート だったのだろうなぁ、思ってしまった。あと、Volodya が初めて Lyudia に贈った プレゼントが、ラジオ (結局自分で使っていましたが) と雑誌だというのも印象的。 特に、その雑誌の名前が『新世界』で、Lyudia がそれをベットの上で夢中に なって読むシーンが、とっても印象的だった。 ちなみに、脚本は Viktor Shklovsky。Shklovsky 脚本というと、Lev Kuleshov (dir.), _By The Law_ (1926) もあるが。この極限状態ものの映画も、さすが Kuleshov、と 思うような、緊張感溢れるストーリーのモンタージュによる組み立てが素晴らしい 作品だ。これもお勧め。 転がり込む男を演ずる男優 Vladimir Fogel は、Vsevolod Pudovkin (dir.), _Chess Fever_ (1925) で、主人公のチェス狂いの男を演じたり、Boris Barnet (dir.), _The Man With The Hat Box_ (1928) で、フラレ役のちょっと間抜けな鉄道員を 演じたり、と、コミカルな役もかなりハマルのだが。その一方、Lev Kuleshov (dir.), _By The Law_ (1926) で、処刑される主人公を演じていたりして、そのシリアスな 演技も素晴らしいのだが。この _Bed And Sofa_ ではその両面が観られるのが良い。 表情の出し方がサイレント映画にぴったりハマっている。Soviet Avant-Garde 映画の 中で一番の男優だろう。_Chess Fever_ もそうだったけど、_Bed And Sofa_ でも モボなファッションが決まっていたし。この _Bed And Sofa_ で、完全にファンに なってしまった。 ちなみに、モボな Fogel と対比的に野暮ったい夫を演ずる Nikolai Batalov も、 Yuri Protazanov (dir.), _Aelita_ (1924) や Psevolod Pudovkin (dir.), _Mother_ (1926) でお馴染み。 妻を演じる主演女優の Lyudmila Semyonova は 初めて観たが。 気が強そうな感じが、モガなファッションが、大変、役に ハマっていて良かった。最後、独り列車で旅立つ姿なんか、もう…。 あまり上映される機会は無いと思うが、是非観て欲しい映画だ。 2000/12 (1999/6/29) 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕