『パサージュ:フランスの新しい美術』 _Passage: New French Art_ 世田谷美術館, 世田谷区砧公園1-2 (用賀), tel.03-3415-6011, http://www.setagayaartmuseum.or.jp/ 1999/7/17-9/19 (7/26;8/9,23;9/13休), 10:00-18:00 (土10:00-20:00) - Bili Bidjocka, Michel Blazy, Sophie Calle, Marie-Ange Guilleminot, Fabrice Hybert, Koo Jeong-a, Majida Khattari, Jean-Michel Othoniel, Huang Yong Ping, Jean-Jacques Rullier, Bojan Sarcevic, Pascale Marthine Tayou フランス年だった去年程から、フランスの現代美術のグループ展がよく開催される ように思うのだが、これもその一つ。コンセプチャルなインスタレーション作品が 中心であり、それも、いわゆる「移民」の作品が半数近く占めているところあって、 良くも悪くも「政治的な正さ」を意識させるような展覧会ではあった。もっと、 感覚的に直接訴えかけてくる強さのある作品が欲しいとも思ったところもあった けれども。 そんな中でずば抜けて印象に残ったのは、在仏アラブ人女性 Majida Khattari の ファッション・ショーに関する展示。それは、フランスで行われたファッション・ ショーを擬したイベントのビデオの上映と、彼女のデザインした服の展示からなる。 ビデオでは、ライ (rai) 中心のアラビアン・ポップを B.G.M. に、デザイン画や 彼女がデザインした服をモデルが着た様子を見ることができる。ファッションを 題材にフェミニスティックな作品を作る、というのはそれほど目新しく無いのだが。 彼女の作品が面白いのは、まるでチャドルを思わせるような拘束的な服が、 女性の抑圧的な状況のメタファーであるように見える一方で、在仏アラブ人と してのアイデンティティを主張しているようにも見えることだろう。1989年から 1990年にかけてフランス国内を揺るがした「スカーフ問題」を思い出させるだけ ではない。この二つのアイデンティティ・ポリティクスの衝突が生み出す矛盾が、 互いを脱構築するかのような面白さがある。とういうようなことを考えつつも、 体のラインに沿ってギザギザの刃が生えた黒いタイトなドレスがいいなぁ、けど、 それって男のやはり視線かなぁ、のようにちょっと居心地の悪さを含んみつつも それを楽しみながら、もちろん、B.G.M. の音楽も楽しみつつ、観ているうちに、 ファッションショーはクライマックスを迎えた。音楽がアラブ風のものから、 なんと、シャンソン、それも Charles Trenet, "Douce France" (「やさしい フランス」という意味。) になったのだ。ドイツ・ファシスト占領下で書かれた 有名な歌、というだけではなく、移民を受け入れる「やさしいフランス」という 意味を含めて1980年代にアラブ移民のロックバンド Carte De Sejour (バンド名は、 移民許可書を意味する。) によってカヴァーされたことで知られる "Douce France"。 そして、この音楽に合わせて登場したのは、トリコロールのチャドルだった。 さらに、ファッションショーのエンディングのお約束、ウェディング・ドレス。 それは、黒人のモデルが着ており (作家からそのような指定がある。)、なんと、 移民許可書 (carte de sejour) を繋ぎあわせたもので出来ていた。それは移民の 制限が強まる中で移民許可書を得るために偽装結婚する移民たちの状況を示唆する ようでもあり、家父長制の国「家」へ「移民」するということとしての結婚を 表わしているようでもあり。そして、B.G.M. には "Douce France" …。 このショーを締めくくるに相応しい、強烈なウェディング・ドレスだった。 この「ファッション・ショー」は7月18日に世田谷美術館でも行われたようで、 見逃したのが大変悔やまれる。 もちろん、他にもいくつか印象に残った作品はいくつかある。Bili Bidjocka, "Pedeluve" は、床に水を張ったちょっとした回廊状のインスタレーション作品で、 裸足で歩く感覚はちょっと夏らしいかも。水から立ち上る消毒剤の臭いには難が あるけれど。ぼんやりと水面に投影されている映像は、パリのメトロとのことだった。 Michel Blazy はギャラリーの一室をちょっと廃屋のような雰囲気にするような インスタレーション。徹底して作り込んでいるわけじゃないけど、ちょっとした 見立てのセンスが好みだった。 それほど期待していたわけではないし、実際、全体としては印象は薄いけれども、 Majida Khattari の「ファッション・ショー」のビデオを観ることが出来ただけでも、 観に行った甲斐のあった展覧会だった。 1999/7/25 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕