『オフィス・キラー』_Office Killer_ - USA, 1997, Color, 84min. - Directed by Cindy Sherman. Written by Elise Mac Adam and Tom Kalin. Music by Evan Lurie. - Carol Kane, Molly Ringwald, Jeanne Tripplehorn, etc. 映画のワーンシーンにありそうな光景を、自らが登場人物に扮して撮影する 写真作品シリーズ _Untitled Film Stills_ で有名な New York を拠点に活動する 現代美術作家 Cindy Sherman が初めて作った映画が、この _Office Killer_ だ。 ホラー映画とのことだが。 1980sにポストモダンの文脈で脚光を浴びた US の現代美術作家が撮った 映画といえば、『JM』(Robert Longo (dir.), _Johnny Mnemonic_, 1995)、 『サーチ&デストロイ』(David Salle (dir.), _Search And Destroy_, 1995)、 『バスキア』(Julian Schnabel (dir.), _Basquiat_, 1996) なんてところが 思い出されるわけだが、どうもダメだという印象 or 評判のものばかりだったので、 あまり期待してはいなかった。 実際のところ、意外と楽しめた。少なくとも、美術作品にありがちな (そしてビデオアート作品にありがちな)、時間を持て余しているというところが 無かったのがとても良かった。半端な映画手法的な実験をしようという色気を 見せることなく、約1時間半、だれることなる観ることができる。 職場のリストラ、父親による娘への性的虐待、のような、社会的に「シリアス」 に扱えるような所にも触れているのだけど、あくまで話のきっかけに用いている だけで、そこを軽くいなしているところが良いのかもしれない。もし、真面目に 扱うと社会派的なもしくは心理的なリアリズムに陥りかねないわけだし。 ホラー映画という「ジャンル映画」を作ることにして、そういう所は狙わなくて、 良かったように思う。 ホラー映画の類型を把握しているわけじゃないけれど、主人公が社内のぱっと しない中年女性だったり、女性の支配的な職場での人間関係の描き方、あと、 死体を使った「おままごと」など、ホラーにしては、そして殺人を扱っている割に 「可愛らしい」(Sherman 曰く「ファニーな」) お話という感じがして、特に前半は、 観ていて妙に微笑ましかった。それが Sherman のテイストなのかもしれない。 1996年に東京都現代美術館で Cindy Sherman の回顧展を観たときに、ちょっとした ドキュメンタリービデオを観たのだけどそこでの彼女のグロテスクなセットを 作るノリに近いものを、映画での死体でおままごとに感じるところがあった。 悪い意味で「おままごと」と言っているわけではないのだけど、なんとなく 「いかにも女の子が書きそうなお話」とか思ってしまったけど。 しかし、後半、腐乱する死体をセロテープでラップして洗剤して消毒する所や、 腐乱死体に手を突っ込むシーンとかは、グロテスク過ぎて、ちょっと正視に堪え なかったけれど。けど、Sherman はこういう映像を撮りたかったんだろうなぁ、 と思うし、観る方である僕も期待していたところはあるのだけど。 音楽の Evan Lurie (The Lounge Lizards) も期待していたのだけど、可も不可も なくといったところ。エンディングがちょっと気に入ったけれど。 1999/8/5 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕