イリヤ・カバコフ『シャルル・ローゼンタールの人生と創造』 Ilya Kabakov, _Life and Creativity of Charles Rosenthal_ 水戸芸術館現代美術ギャラリー, 水戸市五軒町1-6-8 (水戸;泉町一丁目,大工町) tel.029-227-8120, http://www.arttowermito.or.jp/ 1999/8/7-1999/11/3 (月休;10/11開;10/12休), 9:30-18:30 1970s半ばのソビエト連邦で「ソッツ・アート」の一員として活動し、1980s半ば 頃から欧米でも注目されるようになった、コンセプチュアルなインスタレーションで 知られる現代美術作家 Ilya Kabakov の新作展覧会は、Charles Rosenthal という 架空の美術作家の回顧展というコンセプトのもの。小説でいうところのメタ・ フィクションという感じだろうか。 まず、Charles Rosenthal は1898年生まれで1933年に死亡という設定になっており、 この時代設定がかなり意味深長である。作家活動をしている期間が、第一次大戦後 から1933年 (Nazis が政権を取った年であり、翌1934年にはソビエト連邦で社会主義 リアリズムが公式なものとされ、中〜東欧で Avant-Garde 運動が実質的に終わる。) であり、パリへ亡命したと設定された1922年というのは、第一回全連邦ソビエト大会 が開催されソ連邦成立が確認された年である。 しかし、Rosenthal は当時の Avant-Garde 運動の作家として設定されておらず、 むしろ、距離を置いた作家、という設定になっている。写実と抽象の関係がテーマと してあるようなのだけれども、ちょっと単純な折衷で、ちょっと説得力が欠ける かなぁ、と思うところもあった。写実と抽象の関係で言えば、写実的なイラストや 写真を幾何的構成した当時の Avant-Garde のポスターのようなアプローチもある わけで、それと異なる表現となる源泉がどこにあったのか、ちょっと掴みかねた ところがあった。当時の時代に対する関心というのが、どうもすれちがったという 感じもあった。設定が絶妙過ぎて、観る前から期待しすぎたというのはあるかも しれないが。 むしろ、Rosenthal 展としての最後の展示室の、真っ白な地に鉛筆書きの下書き 様のものが書かれたものがずらっと並んだものが、「Rosenthal 展」という点とは 違った意味で面白かった。最初のうちはほとんど書かれたものが目に入らないのだが、 眺めているうちに次第に目に入るようになってくるのだ。「写実」として何が 描かれているかというものあるのだが、線の強弱具合などが目につくようになる のも面白かった。そして、Kabakov の写実的な線画の巧さに気付かされた。 Rosenthal 展としての5室の後に、Kabakov としての作品の部屋があるのだけれど、 その展示室での以前に佐谷画廊でも観た絵本というかイラスト風の絵を観ていても、 Rosenthal 展と Kabakov の作品の部屋を結ぶ廊下に展示された Rosenthal 展の イメージスケッチにしても、Kabakov のイラスト的な線画のセンスが映えていたと 思うし、結局、最も印象に残っているのは、そういう所だったような気もする。 そんな展覧会だった。そういう点で、むしろ、絵本作家 Kabakov の展覧会、と いうのも観てみたくなってしまった。 1999/8/19 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕