『黒猫・白猫』_Black Cat, White Cat_ - France / Germany / Yugoslavia, 1998, Color, 130min. - Directed by Emir Kusturica. バルカンの内戦の状況に対する風刺も強烈な、というよりも、狂言回し的に フィーチャーされたバルカンのブラス・バンドが強烈に印象に残った前作 『アンダーグラウンド』(_Underground_, 1995) に続く Emir Kusturica の 新作は、他愛のないコメディ。その笑いの他愛のなさは、ドタバタ騒ぎの 笑いということで保証されているようにも思うし、それも比較的前近代的な 社会観に基づく行動によって引き起こされることが、ほのぼのした感じで 良いのだけれど。 そんな中では、主要な登場人物の中で一番若い世代である、主人公の Zare (Florijan Ajdini) と Ida (Branka Katic) のカップルが最も近代的な行動を 取る登場人物として描かれており、最後に「ここには太陽が無い」とロマ 社会を出ていってしまうところに、この映画の笑いに含まれる感傷を感じる。 _Underground_ のバルカン・ブラス・バンドのノリも強烈に良くて楽しめたし、 今回の映画もバルカンのロマ (ジプシー) の社会が舞台なだけに、この映画 でも一番の楽しみは、音楽だったりしたのだが。_Underground_ の音楽は Goran Bregovic だったのだが、今作では、かつて Kusturica もメンバーだった という Dr. Nele Karajlic 率いるバンド No Smoking。やはり、バルカン風 ブラス・バンドとして出てくるのだけれど、_Underground_ のようなシリアスな 背景がある物語ではないので、あまりその場を持っていってしまうような、 場面を異化してしまうような、強烈な印象を残さないのが、ちょっと惜しい。 男性の登場人物がダメ男で女性の登場人物がシッカリ者、という傾向のある 設定も、コメディにありがちな設定とはいえ、けっこうツボにハマっていたし、 なんといっても、ヒロインの Ida のかっこいいけどかわいいのが良かったので、 楽しんで観ることができた。もちろん、周囲の一癖あるダメ男たちがそれを 映えさせているのだけど。 もうちょっと風刺的な面も欲しい、と、観ている間は思ったけれど、 _Underground_ で際どいところまでやってしまったし、今作はこの程度くらい が良いのかもしれない。 1999/8/28 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕