『ワイマール時代の諷刺画』_Kritische Grafik in der Weimarer Zeit_ 町田市立国際版画美術館, 町田市原町田4-28-1芹が谷公園内 (町田), tel.0427-26-2771 1999/8/28-9/26 (月休), 10:00-17:00 (土日祝 9:00-17:30) - Karl Arnold, Gerd Arntz, Max Beckmann, Albert Birkle, Otto Dix, August Wilhelm Dressler, Heinrich Ehmsen, Conrad Felixmueller, George Grosz, Karl Hubbuch, Franz Maria Jansen, Kaethe Kollwitz, Bernhard Kretzschmar, Jeanne Mannen, Karl Roessing, Christian Schad, Josef Scharl, Rudolf Schlichter, Hans Schmitz, Georg Scholz, Georg Schrimpf, Lasar Segall, Augustin Tschinkel, Christoph Voll 第一次大戦後からナチスが政権を取るまでのドイツのワイマール時代 (1919-33) の 諷刺画の展覧会。会場の性格上か、版画のものが多いような気がするが、ペンを 使ってインクで描かれているものが多い。 入ってすぐ、Gerd Arntz の非常に構成主義的な白黒イラストがずらりと並んで、 ぐっと掴まれる。題材は国内の暴動や労働問題を扱っているのだけど、リアリズム と違ったアプローチで、巧くそれを表現しているのが良い。しかし、この手の作家は 展覧会の中ではそれほど多くはなく、あとは Hans Schmitz、Augustin Tschinkel のみ。いずれも「進歩的芸術家」グループ界隈の人たち。 全体的に表現主義的な傾向のイラストが多くて、当時の商業ポスターに多く見ら れるアールデコ風のものがほとんど無いのも意外だった。ま、諷刺画だし。 第一次大戦の戦場を描いた Otto Dix の『戦争』(_Krieg_, 1924) シリーズや、 Berlin の 退廃を描いた George Grosz の『この人を見よ』(_Ecce Homo_, 1923) シリーズといった、比較的有名な作品が、ある程度まとめて見られたのは嬉しかった。 いずれも、グロテスクな感じのイラストであるが。特に Grosz とか線画のセンスが 意外に良いなと見直したり。意外に細部の描写に凝っているし。 Grosz と同じく Dada あがりの Christian Schad の線画のセンスが良い。諷刺画 じゃないけど女性を描いた _Maika_ (1928) とか素敵。そう、諷刺画ということで、 物や人物が具体的に描かれているものが多く、1920年代ならではデザインや ファッションのノリやそのデフォルメ具合を観るのも楽しい。 その一方で、戦争や労働問題を描いたものも多く、そんな中では、Kaethe Kollwitz, _Brot_ (1928) が感動的。画風はむしろ中でももっとも古典的なのだけど、逆に それが生きている。 展示は作家の作風や属したグループに従って並べられたりせず、単純に作家の アルファベット順。そういったそっけなさは、イラストの展覧会らしくて良い。 ちなみに、この展覧会は、後ろを1933年が切られているわけだが、それは単に ドイツがナチス時代に入ったという便宜的な区切りを意味しているだけではない。 作家のプロフィールを見ると、この展覧会に出展されている作家のほとんどが、 1933年以降、「頽廃芸術」として、その活動を禁止されているのだ。そういう意味で、 1933年をもって、このような諷刺画は終わった、ということもあるのだと思う。 こういうイラストは美術館で観るようなものではない、という気もするけれど。 1920年代の独特の雰囲気を、ちょっと諷刺の利いた視点から楽しめる展覧会に なっているので、その時代の芸術やデザインが好きな人にはお勧めだろう。 1999/8/29 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕