アート・イベント「art Link 上野-谷中」も、今年で3回目。もはやイベントと してはさほど期待していないのだけれど、秋晴れの日に谷根千界隈を散策しに 行く気分で観て回ってきた。 秋山 祐徳太子 + 小沢 剛『Hack the Future ― 美術史の闖入者たち』 上野の森美術館 Extra, 東宝チェリー2階 (上野) 1999/10/9-24, 10:00-17:00 Jerome Saint-Loubert Bie Command N, 台東区上野1-2-3犬塚ビル1F,BF (湯島), tel03-5812-7506 1999/10/8-24 (10/17,18休), 13:00-19:00 美術史や美術の制度に関する美術作品を観るときに多く感じることの一つとして、 美術に関する問題は多くの人が関心を持つ重要な事であるという、そういう前提 の下で作品を制作しているのではないかと思わせるような、つまらなさがある。 それは、その場限りで良いから、それが重要な事であると思わせるようなものが、 作品に無い、という問題でもあるのだが。例えば、観客が直面する社会制度の隠喩 としての美術制度、のように。 例えば、小沢 剛 の「醤油画」によって日本の現代美術史をパロディにする インスタレーションのつまらなさは、「醤油画」によって脱構築する必要がある ほどに社会的に構築されたものが日本の現代美術を取り巻く制度や言説になかった からなのかもしれない。こういう対象の暈けた感じが、どうも作品の説得力を 削いでいるような気もする。 海外での日本に関する展覧会カタログの表紙写真を集めた Jerome Saint-Loubert Bie の作品の弱さも、そういう所にあるように思う。アーティストトークの際の過去の スライドを観る限り、美術制度に限らず、物事を分類し記述するシステムを題材に しているのだが。スライドで観た過去の作品の中では、動物園にあるような動物を 説明するブレートをその動物がいるはずもない公園の中に設置し、仮想的な見学 コースを設定するインスタレーションが、博物学的な分類記述の制度の脱構築という 意味でもとても面白そうだったのだが。せっかく谷中の街中でのプロジェクトだった ので、むしろ、美術制度以外を題材にして欲しかったように思う。 美術制度を自己充足的に参照する作品が、イヴェント的な展覧会の中で開催される、 というのは、少なくとも今の僕にとっては最悪に近いのだけれど。もちろん、 そんな展覧会ばかりではない。より感覚的な展覧会をいくつか紹介。 遠藤 利克『Trieb - 振動II・III』 SCAI The Bathhouse, 台東区谷中6-1-23柏湯跡, tel.03-3821-1144 1999/9/24-10/24 (9/26,27;10/3,4,18休), 12:00-19:00 水の彫刻、音の彫刻、とのことだが、後者は普通のサウンドインスタレーション。 水の彫刻はかなり大胆なことをしていて、中央に水の湧き出し口があって、 ギャラリー内は水浸し。深さは5cm程度だろうか。靴を脱いで、ブラスチックの 短長靴を履いて、その中を歩いて楽しむことができる。一歩間違えば、単なる ビルの中にある親水噴水なんかと同じなのだが。普段のギャラリー空間を僕は 知っているので、その落差を楽しめることができた。 渡辺 好明『光ではかられた時 ―水鏡―』 アートフォーラム谷中, 台東区谷中6-4-7, tel.03-3824-0804 1999/10/9-24, 11:00-19:00 今年の頭の斎藤記念川口現代美術館でのロウソクの作品のシリーズを期待したのだが、 そうではなく、去年の5月に芝山野外アート展で観たのと同じ、水を張った透明な ガラスの容器の作品だった。芝山で観たときは、天気が悪くて暗めだったこともあり、 綺麗だと思わなかったのだが。窓の大きなギャラリーに土を敷いて、巨大なレンズの ような作品が置かれている様子は、抽象的な野外を切り出して持ち込んだという 感じで、意外と良かった。 1999/10/11 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕