『ヘンリー・フール』_Henry Fool_ - USA, 1997, Color, 137min. - Directed, Written and Produced by Hal Hartley - Thomas Jay Ryan (Henry Fool), James Urbaniak (Simon Grim), Parker Posey (Fay) やっぱり、Hartley が一番良かったのは『トラスト・ミー』(_Trust_, 1990) だった のかもしれない、と、観ていて思ってしまった。2時間余りの上映時間は、眠くなる どころか、むしろ短く感じたくらいだったけれど。やはり、期待外れ。こちらが過大 な期待をしているだけなのかもしれないが。 「クリエイティブな人間であることの困難性をずっと描きたいと思っていた。」と いう監督の Hartley の言葉を、映画を観る前からフライヤーなどで読んでいたこと もあって、ある程度予想ついていたのだが。天才性、創造力などのロマンチックな 芸術作家像に関する映画だった。Henry Fool と Simon Grim という2人の"作家"が 登場するのだが、彼らの作品は映画の中で実際に提示されることはない。 彼らが「実際」のところ「天才」であるのか、「創造力」を持っているのか、は 映画の中では明確に設定されていない。多くの芸術作家のドキュメンタリーや 伝記の映画化と違い、この映画は、「天才性」「創造力」とは何か、ということは 問題にしていない。むしろ、何が作家における「天才性」「創造力」とされている のか、ということに関する映画になっている。 この映画では、その芸術ジャンルとして詩 (文学) を選んでいるのだが、それは、 ロマンチックな作家像の成立から考えると、もっともだと思う。Henry Fool の セリフは、ロマンチックな作家像に対する素朴な信仰に基づくものだが、映画の中 では決して他人から作家として認められないということにより、Henry Fool のダメ男 な生き方はそのロマンチックな正当化から逃れている。さらに、ロマンティックな 作家像に対する自意識を持たない Simon Grim の成功という対比によって、それは 際立たせられているとも思う。 と、考えて判らないわけではないけれど、映画を観ていてそれが感じとして伝わって こないのだ。それは、Henry Fool のセリフと生き方の描き方が、ロマンチックな 作家像を脱構築するような矛盾に至っていないからかもしれない。Hartley の今まで の映画では、登場人物が自分の心情を語っていないと思わせるようなちぐはぐな セリフを言う場面があったり、物語の流れを遮るようなセリフや音楽があったのだが、 この映画では、ほとんどのセリフが登場人物の心情に沿うようなものとして機能して いたからかもしれない。このように、形式性を際立たせるような構成・演出が無く、 物語が比較的自然に進行したことが、この映画を平凡なものにしたように思う。 しかし、この映画の一番のひっかかりは、最後の20分、殺人を犯した Fool を Grim の手引きで高飛びさせてしまうところかもしれない。これは、「ダメ男」が警察に 捕まるところで終わる『トラスト・ミー』とは、極めて対称的だと思う。そして、 この終わり方が、この映画全体を非常に感傷的なものと感じさせているように思う。 1999/11/12 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕