『取手リ・サイクリング アート プロジェクト』 取手市内, http://www.ima.fa.geidai.ac.jp/trdproj/ 1999/12/7-21 - 瀬藤 康嗣, 中島 隆, 稲田 多喜雄, 村山 華子, 高橋 薫, 木村 崇人, 坂本 直子, 中野 義寿, 山崎 ナナ, 石井 勢津子, 取手彫刻クラブ, 豊田 直香 + 松本 郁 + 高橋 唐子, 五十嵐 靖晃, 山成 みほ, 粟野 ユミト 東京芸術大学が今年、取手キャンパスに開設した先端芸術表現科の主催する 街中アート・プロジェクトが、キャンパスのある取手市内を使って開催されている。 といっても、取手市やその市民ボランティアを巻き込んでのプロジェクトだが。 駅前のインフォメーション・センターで自転車を借りて観て回ることができる。 12/12の昼前から自転車を借りて3時間ほどかけて観て回った。 最も印象に残ったのは、東口駅前のイトーヨーカドー前での 坂本 直子 の パフォーマンス『脱出欲求』。高さ2m幅3mほどのボートにベージュ色の布の袋を かぶせてあり、その中に入って (その中から出ようというかのように) 蠢く、 というだけのもの。布袋に開いた穴から裸の手足が突き出ているときもある。 布の形状や色にしても、動きにしても、比較的ミニマルなのだが、それが逆に、 他のパフォーマンス系の出展者のように、下手に飾り立てた奇異な格好をしたと いうものよりも人目を引いたかもしれない。通りががかった中学生くらいの 女の子五人組にとてもウケていて、「寒くないですかぁ。」とか声をかけられて 受け答えして、「ちょー、おもしろい。」とかウケていたのも良かった。 インスタレーション系の出展者では、五十嵐 靖晃『市街化抑制区域の変貌』。 取手駅東口にある吉田地区という市街化抑制区域の家のベランダや庭の物干し台に 赤い布をかけてもらう、というもの。利根川の堤防の上から一望できるだけに、 やってるなぁ、というのは、よく判る。取手駅の東口側は、市街化抑制区域に なっている地区があるだけでなく、駅前から芸大取手キャンパスに向かう芸大通り 沿いが屋外広告物禁止区域になっていたりして、駅から少し離れるとサバービアと いうか郊外風の風景にならず、むしろいきなり少し昔の田舎の風景になる、という 感がある。それは、このインスタレーションを観るまでもなく興味深いと思った けれども。そういう風景に、赤い布をあしらうことによって、観るものにその社会 にある問題点を共有できるというわけでもないなぁ、とも思ったりもした。 規制によって風景に反映されていない「郊外」性を、郊外なドライヴインなどの 看板で使われがちな赤い四角という (モダンな感じがする) イメージで表層化 しているのだろうか、とか邪推してみたり。 しかし、全体的には、思ったより地味というか、密度が薄いという印象もあった。 こんだけエリアを広げるなら、もっと作品が多かったり、もっと規模が大きい 作品があっても良かったように思う。最近、僕が街中アート・プロジェクトに 感じている退屈さを感じるところもあったが、予想以上に酷いものでもなかった。 あと、天気が良くて自転車で走りまわるのも楽しかったけれども、これだけ広いと、 風が強かったり雨が降ったりしたら、観て回るのは厳しいかもしれない。 シンポジウムを聴いてきたのだけど、特に目新しい話はなし。川俣 正 が、アートと してのクオリティとして、サイトスペシフィックであることを挙げていたのに、 ちょっと反発を感じたり。まあ、アートの正統性の中心にサイトスペシフィックな ものがあるというのは判るのだけど、それはあくまで事後的に形成されればいい ようなことであって、いきなり目的に据えてしまうとつまらなくなる、というのは、 今まで僕が観てきた街中アート・プロジェクトを観てきて痛感してきたことだった だけに。確かに、「アーティスト」としての成果を出すという、意識を持っている という証かもしれないが、そういうアートの正統性を獲得するという成果は、 今の僕にとってはあまり興味深いことではないのだ。 1999/12/12 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕